天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】

「……さっきは忍耐力がどうのとかおっしゃってませんでした?」

 腕を組み睨み返すと、宗司さんは目を瞬き、それから「はは」と笑った。

「最高だなあ俺の婚約者」
「それはどうも」

 言葉を返すと、宗司さんはにやりと口角を上げた。

「なんですか、その顔」
「強がっているところ申し訳ないが、顔が真っ赤だぞ」
「なっ」

 ばっと鏡の方に顔を向けた私のこめかみに、柔らかなものが押し付けられる。
 それがなにかは考えなくとも分かる――だって、鏡に私のこめかみにキスする宗司さんが映っているのだから。そして、私の顔は真っ赤。

「そ、宗司さん」
「あー……このまま部屋もとろうか? 温泉はもう入っただろ?」

 そう言いながら彼は私の首筋を指でつう……と撫でる。びくっと肩をすくめ、おずおずと彼に視線を向けると、彼が私を見つめながら顎の下をくすぐる。

「返事は?」

 掠れた、低く、甘い声……と、同時にぽんと軽やかな音がした。

「残念」

 彼はそう言って私から離れ、すぐさま肩を抱き寄せる。

「行こうか」
「は、い……」

 私は絨毯を踏みしめながらぽうっと彼に続く。今、私、彼に一体なにをされたの?
 触れられたところが熱い、キスされたこめかみは火傷したみたいにジンジンしている。

 料理の味はどれも一流でおいしかったのに、緊張でそれどころじゃなかった。
 宗司さんはとても優雅に上品に、ぺろりと料理を平らげた。彼が選ぶワインはどれも料理によく合って、素直にすごいなあと思う。

 あまりこういうことは考えないタイプだけれど、宗司さんはやっぱり私とは違う世界の人なんだなあと思う。

 努力でどうにかなるものじゃない何かを持っている。
 そんな彼が私が欲しいと思うのは、きっと物珍しさからだろうと、頭の片隅で冷静に考える。

「ごちそうさまでした」

 食後のコーヒーをサーブされたあと、ペコっと頭を下げると宗司さんは肩をすくめる。私はそのまま視線を窓の外にスライドさせた。
 雲一つない冬の空、寒いはずなのに日差しは暖かく見える。

「ところで、そろそろ聞いてもいいですか?」
「君の質問ならなんでも」
「このお出かけの目的が……」

 言いかけた私を、彼は人差し指一本で制する。

「デート」
「……デートの目的がわかりません。宗司さんの休養では?」
「違うよ。君が喜ぶ顔が見たかった。温泉が好きなんだろ?」
「え、いつそんな話……あ!」

 少し前、一緒に本棚を買いに行ったときに確かに話した。

「よく覚えてましたね」
「志季子のことだから」

 サラリと彼は答え、それから「あとは」と目を柔らかく細める。

「お姫様扱いしたらどうなるかなと思ったんだ」
「お姫様」
「君は俺のお姫様だから、着飾ったら美しいだろうなと思った。予想通りだ」

 でも、と彼は続ける。

「どんな君でも綺麗なのは変わらなかった」

 私は思わず言葉を失う。しかも、……頬が熱い。
宗司さんは何度か瞬きをし、それからなにかを言おうと口を開きかけた瞬間、「あれ、香月」と声がかかる。宗司さんくらいの男性が驚き顔で私たちを見ていた。
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