天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】

 なのに彼は「あー」と頭を抱えながら起き上がり髪をぐしゃりとかき混ぜる。

「危ない。理性半分飛んでた」

 その声で、私もハッとして乱れかけた浴衣の胸元を掻き合わせる。

「ごめん」

 宗司さんはとっても素直にそう言ったあと、私の指先を握る。

「でもさっき言った言葉、本気だからな。愛してる」
「宗司さん」

 宗司さんはにっと笑うと私を抱っこしてベッドから下りる。

「わ、どうしたんです」
「せっかくの露天風呂なのに、入らないのもったいないだろ」
「い、一緒に⁉」

 目を剥いて叫ぶようにいる私を見下ろし、宗司さんは笑う。

「そうしたい?」
「い、嫌です。無理ですよ、恥ずかしすぎます……っ」
「恥ずかしいだけ?」

 そう言って彼は私の顔を覗き込む。感情をかけらさえも見逃さない、そんな仕草で。

「え、と……それは」
「キスを受け入れてくれるくらいだから、もうほとんど俺のこと好きだよな」
「す、好き⁉」

 目を白黒させる私の顔はめちゃくちゃに熱い。唇を尖らせるやいなや、ちゅっとキスが落ちてきた。

「宗司さん!」
「ああごめん、キス待ちかと」

 そう言いながら彼は私を抱いたまま片手でテラスに面した窓を開く。照らすの先に檜の露天風呂があるのだ。

「目隠しするから一緒に入らないか?」
「目隠し?」
「ん」

 彼は私をテラスの椅子に座らせると、しゅるりと浴衣の帯を解く。

「な、何をっ」
「ほら、縛れ」

 なんでもないように彼は言う。

「そ、そこまでして私と温泉入ってなんになるんです」
「うーん。なんでだろうなあ。癒されるからとか?」

 彼はいっそ快活に笑う。私をため息をつき、帯をつきかえした。

「反対向いてくれてるなら、いいですよ」

 そう言った私を見て、彼は目を真ん丸にしたあと、とっても嬉しそうに笑った。



※※※

「えー、先生。今日、とっても綺麗です。なにかありました?」

 新人看護師の川上さんに言われ私は苦笑した。今は遅い昼休み、医局のある自分のデスクで電子カルテを確認しながら食事をしようとしていたところだ。

 朝からずっとこんな感じだ。やはりあのエステがよかったのかな……なんて思っていると、彼女はウキウキを顔面いっぱいに浮かべて続けた。

「香月先生が一緒に温泉に入ったって朝からのろけてらっしゃるのは小耳に挟んだんですが」
「げふっ」

 私は飲みかけの緑茶を吐き出しそうになる。

「な、ななななななんて?」
「え、ですから~、うふふ。土日、先生と香月先生がとってもいちゃいちゃされていたと」
「事実無根だわ」
「温泉に行ったんですよね?」
「そ、それは」
「一緒に入ったんですよね?」
「そ、それは」

 どれも事実だ。事実なのだけれど……っ。
 背中に医局中の人間の好奇に満ち満ちた視線が突き刺さっている。
 私はバッと立ち上がる。これ以上耐えられない……!

「こっ、コーヒー買ってきます」
「ふふ、照れ屋さんですね先生。頼まれていた検査結果、ここに置いておきますねえ」

 川上さんにからかわれながら部屋を出る。ああ、一体どうしてこんなことに。
 熱くなった頬を覚ましながらカフェ近くまで歩いてくると、大きな男性の声が私を呼ぶ。

「志季子!」

 誰だろうと振り向き、そうして目を真ん丸にする。

「久しぶりだな!」

 白衣をはためかせながら私にむかって手をふる、大柄で溌溂とした男性に、「ゆーちゃん!」と私も笑顔を浮かべた。浮かべてしまった……だって久しぶりの幼なじみとの再会なのだもの!
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