天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
私は目を瞬く。おお、さすがわが幼馴染、色々把握してる……。
「そのあたりは超越しているので。で、ところで志季子、鴻上先生とはどんな関係なんだ?」
宗司さんは笑っている。
でもなんだか「気に食わない」という表情を隠してもない。あのホテルの支配人にしたような大人な社会人的対応をする気はないらしい。
私はため息をつきながらゆーちゃんとの関係を説明する。宗司さんは「ふうん」と腕を組んだ。
「幼馴染ね。ただの、幼馴染。よかった」
やたらと「ただの」を強調しながら宗司さんは言い、私の肩を抱いてカフェに入る。
「え、宗司……香月先生、ちょっと」
「コーヒー飲みにきたんだろ」
「そうですけど」
チラっと後ろをうかがうと、ゆーちゃんはにこっと私に手を振る。私も振り返すと、宗司さんがむくれた顔をした。
「せ、先生。いい年をしてそんな顔をしないでください」
「うるさいな。自分がこんなに嫉妬深いと思ってなかったんだよ」
「嫉妬……」
私は目を瞬く。だって、こんなになんでも持っている宗司さんが私がちょっと幼馴染と親しく会話していたくらいで、嫉妬?
「なんだよ、あの嬉しそうな顔。俺にはしたことないだろ、あんな顔」
「ええっ」
私は驚き、それから「ふふっ」と噴き出した。
「笑うな」
「ごめんなさい、かわいいと……」
私は口元を押さえた。
「可愛い?」
宗司さんが私の顔を覗き込んでくる。私はむっと眉を寄せながらテイクアウトのコーヒーを注文する。宗司さんが私の横でにんまりと笑う。
「まあ、君が可愛いと思ってくれているならいいか」
「思っていません」
「ふうん」
嬉しそうな宗司さんと渋面だろう私を見ながら、カフェスタッフがくすくすと笑う。
「相変わらず仲が睦まじいですねえ」
「まじくないです」
「なんだその日本語」
ケタケタと笑いながら宗司さんが私の頬をつつく。
うう、どんどん外堀埋められている気がする……っ。
夕方になって、医局の私のデスクまでゆーちゃんが訪ねてきた。外科と内科は病棟が違うから、医局も別だ。
「どうしたの?」
「ああ、いや……ちょっといいかな?」
ゆーちゃんは眉を下げにこっと微笑む。なんだろう、と思いつつ無人の談話室までついて行った。
「香月先生と志季子の婚約のことだけど」
「ああ、うん。そのー、えっと」
説明できないからなー、と目を逸らした私の手をゆーちゃんが握る。
「なにか脅されているのなら僕が力になる!」
「ゆーちゃん?」
ゆーちゃんは慌てたように私から手を放し、ぽりぽりとこめかみを掻いた。
「香月先生のことは、アメリカにいたときから話は聞いてた。とてつもなく有能だけれど、えげつないくらい俺様だって」
「海越えちゃっているじゃない」
思わず噴き出す。
学会だのであちらに行くこともあるから、それで噂になったのか、日本人医師たちの間での噂話か。
「医師としてすごい人なのは見ていたらわかる。ただ、彼の性格が結婚向きとは思えない。君が彼を好きになると思えないんだ」
苦笑する私に、ゆーちゃんは更に言い添える。
「彼は医師としては最高かもしれないが、人としてはどうなんだ? ああいう性格だから、後継者として難ありとして池崎先生が推薦されたんじゃないか」
一瞬言葉を失う。
それから、ゆーちゃんがこの中途半端な時期にやってきた理由に思い至った。
「ゆーちゃんは……池崎先生派なの」
宗司さんは単に嫉妬していたわけじゃない。ゆーちゃんが池崎先生を支持していると知っていたから警戒していたんだ。
「派というか」
困ったようにゆーちゃんは両手を開く。
「あちらで世話になった人に、池崎先生を頼むと頼まれたんだ。医師としては成長中だけれど、経営者としては頼もしい人材だって。このまま冷たくて周囲を顧みない香月先生が後を継ぐのは望ましくないって」
「それは自分の目で見て決めたらどう?」
声が冷え冷えとしているのが、自分でもびっくりした。こんな声をゆーちゃんに向けるなんて。