天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
平気で上級医や指導医に荒い口調で話す。自分のほうが偉いと思っているのだろう。御曹司だからかと思っていたら、実際は違うらしい。
『腕がいいやつが一番偉い』
とのことで……本当に一年目?
なにを食べてどうやって育ったらそうなるの?
いや、というか一年目なのにその知識量と手技は一体どう身に着けたの? と疑問は尽きない。
とにかくまあ、指摘内容は香月先生が正しかったし、命の現場で丁寧に会話するのも時間の無駄と思っているならそれでいい。
問題は、厳しすぎたせいだ。
それは研修医である私たちに対しても、例外じゃなかった。
分かってる。患者の命がかかってる。足手まといなのもわかる。
でも、だからといって、苛立ちをストレートに出していいとは思わない。
それは結果として、患者のためにならないからだ。
『香月先生。先ほどの姿勢はどうかと思います』
休憩中、スマホを見ながらカップラーメンをすする香月先生の前に立ちそう言い放つと、休憩室がざわっ……と静かに騒めいた。なにを言っているんだあの研修医、といった視線が背中に突き刺さる。
でも私は間違っていると思ったら止められない。
『どれ』
青いスクラブ姿の香月先生は私を見上げ、箸は止めないまま端的に問う。端整な眼差しにありありと浮かぶ「面倒くさい」という感情にイラっとした。
『我々研修医に対する姿勢、全部です』
『あー……まだ学生だからヨシヨシしてほしいって?』
香月先生はこちらを見もせずに言う。
『違います。あれでは萎縮します。それにより、インシデントが発生する可能性もあります。厳しいご指導ご指摘は感謝しますが、萎縮によりインシデントが起きれば本末転倒です』
香月先生は箸を止め、ごくんと咀嚼していた麺を飲み込んだ。
男性らしい喉仏が上下する。
なんとなくそれを見つめていると、彼は『わかった』と相変わらずな口調で答える。
『萎縮してるやついたらごめん。改める』
振り向いて私の友人たちにそう告げると、先生はラーメンに戻った。友人たちが「い、いえ」ともごもご呟きながらお互いに視線を交わす。
「香月先生、ご休憩中に失礼いたしました」
「ん」
ぶっきらぼうに答える香月先生の肩越しに、ふと、テーブルに置かれたスマホが目に入った。アメリカの医学論文検索サイトのページだ。
……香月先生、休憩してないじゃん。ストイックな人だ。まあ、これくらいでなければあの知識量は手に入らないか。
真似しよっと。
そう思いつつ頭を下げ、自分の席に戻る。