天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】

 汚い感情だと思う。
 こんなものが自分の中にあったなんて信じたくない。いやいやと首を振れば、彼が私の手首をつかみ、そのまま噛みつかれるみたいにキスされた。

「ん……っ」

 口内を荒々しく彼の舌が這いまわり、貪る。
 私に呼吸の暇なんて与えられない、息をしようともがくたびにキスが深くなる。
 頭の奥がジンと痺れる、苦しい、なのに。ああ、なのに。

 私が感じているのは明らかな幸福だった。彼に求められている優越感だった。
 信じられない、自分がこんなに醜い人間だなんて。

 それほどまでに彼を愛しているのだなんて!
 感情が昂り、目の奥が熱くなる。

「う、あ……っ」

 悲鳴とも嬌声ともとれない、甘えて媚びた声が自分から溢れ、同時に涙も零れ落ちた。

 とたんに唇が離れ、微かに息を呑む気配がした。
 彼を見上げれば、くっきりとひた喉仏が上下するのがわかった。
 目を瞠り、私の涙を見つめているのも。
 私の頬を、男性らしい硬い指先が撫でる。

「……ごめん」

 迷子の子どもみたいな声だと思った。呆然とした声音だった。

「ごめん、志季子。嫉妬して暴走した──自分がこんなふうになるなんて、思ってもなかった」

 頬に触れる彼の手に、そっと擦り寄る。彼は微かに息を吐いた。

「怖かったか? それとも、嫌だった?」

 宗司さんは悲しげに眉を寄せている。

「ごめんな。でも、手放してやれない」

 それから私の両方の頬を包み、じっと目を見つめる。

「もう無理なんだからな、志季子。君は俺から離れられない」

 言い聞かせるように言葉が紡がれる。

「なんで嘘ついた?」
「……ごめんなさい」
「嘘をつかないといけない状況だったのか?」
「それは……」

 口篭る私に、宗司さんがまっすぐに言う。

「言ってくれ。別れる以外のことならなんでも聞く」
「……そもそも私たち、付き合ってましたっけ」

 さすがに突っ込むと、宗司さんはさらっと答えた。

「婚約してるだろ」
「偽装の。私のことなんか、愛さないって……」

 私はなんでこんな子供みたいなこと言っているんだろ。
 甘えているのかな、彼に……拗ねて、甘えて、縋っている。

「撤回しただろ」

 ばっさりと言い捨て、彼は私の頬を手のひらでグイっと少し乱暴に拭う。

「志季子」

 優しい声に、根負けした。
 というか、吐くまでここから出られないだろう。宗司さんは薬の影響で、風邪をひきやすい。
 身体を冷やすのはあまり良くなかった。

「……宗司さんの許嫁だという女性です」
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