天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】


「いや、いないけどそんな奴」


 あっさりと返された。私は眉を寄せる。

「でも、池崎先生が」
「志季子。まさか池崎にほいほい着いてどっか行ったのか? いま一番警戒すべき相手だろ」
「い、……行きましたけど」
「何を考えて……っ」

 宗司さんの顔が悲痛に歪む。

「わかった、明日から君は警備員雇って送迎させる」
「な、なにを馬鹿な。絶対拒否します。それより、どうなんですか。許嫁って、昔はいたりとかも?」
「だからいない。生まれてこのかた、そんなもんいたことがない。そもそも、許嫁なんかいたら偽装とはいえ婚約しないだろ」

 ばっさりと断言され、私はぽうっと彼を見つめる。

 それはそうなのだ、そこは理解していた。
 していたのに、感情が制御できなくなって。

 ガレージのそう明るくない照明の中、彼は私だけを見つめていた。私だけを……。

 ぽろり。

 さっき止まったはずの涙がまた零れ落ちた。胸に去来していたのは狂おしいほどの安心感だった。

 私、不安だったんだ。彼が彼女を思い出して、あの子のところに行っちゃうんじゃないかって、不安だったんだ。

 不安すぎてそれが原因だと考えもつかないくらい、怖かったんだ……。

 宗司さんが大慌てで私の涙を拭う。

「ああ、また泣かせた。くそ、どうやったら泣き止む?」

 彼は本気で焦った声で私を甘やかす。

「ごめん、志季子。怒って怖かったよな。ごめんな」
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