天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】

「なにしてるんだ?」
「あ、いや……広いなあと……」

 部屋はスイートだ。白とロイヤルブルーで統一されたリビングのほかに寝室がふたつ、客間がひとつ。シャワールームが三つ。

 まあ、寝室を分けてやる気は一切ないが……窓からはニューヨークの摩天楼が一望できる。喜ぶかなあと思ったが、逆に緊張しているらしい。

「うーん。なんでだ? ああ、温泉がないから気に入らないのか? ああ、そういえば少し離れているが銭湯があるらしいぞ、行ってみるか?」
「そういうわけじゃないですよ、気に入ってないわけじゃ……というか、アメリカに銭湯があるんですか?」
「スーパー銭湯だよ」
「スーパー銭湯がマンハッタンに⁉ ……じゃなくて」

 こほん、と咳払いして志季子は部屋を見回す。

「この部屋、ラグジュアリーすぎて気に入るとか気に入らないとかいう問題ではないというか」

 というか、と志季子は唇を尖らせた。

「どんだけ私が温泉好きだと思っているんですか」
「好きだろ」
「好きですけども」

 志季子はそう言ってポスンとソファに座る。その横に座ると、珍しいことに彼女が自分から俺にぎゅうっと抱き着いてきた。

 こちらに来てから、……いや、出国前から、彼女はずっと緊張している。

「どうした」

 綺麗な形の頭を撫でながら聞けば、志季子はひゅっと息を吞み、それから続ける。

「だって……」
「だって?」

 こんなに歯切れが悪いのも珍しい。
 そっと抱き寄せ膝に乗せれば、彼女は素直に俺に甘える。

「なんでもないです。大丈夫、うまくいきます」

 そう言う彼女は、まるで自分に言い聞かせているようで。
 そうか、俺のことが心配だったのか。
 俺はあまり自分に気をかけることがないから、すっかりその視点が抜け落ちていた。
 少し自分に呆れて小さく笑いながら、俺は「先生」と彼女を呼ぶ。

「吉武先生」
「……急になんです」
「自信ないんですか」

 冗談めかして言えば、彼女は眉を下げ、一瞬涙目になったあと、頭を振る。

「いいえ。誠心誠意、寛解に向けて努力します。一緒にがんばりましょう」

 医師としての力がこもった言葉だった。
 俺は微笑み、そのまま彼女をソファに押したおす。

「宗司さん?」
「俺も甘えていいか?」

 志季子は少し目を瞬いたあと、小さく笑って俺に向かって手を伸ばした。
 俺は彼女にキスを落とす。
 何回も、幾度も、角度を変えて深さを変えて、飽きることなく繰り返す。



 すっかり乱れた志季子をたっぷりと味わったあと、ふたりでシャワーを浴びる。
< 98 / 119 >

この作品をシェア

pagetop