甘く香るあなたと、唯一無二の。
* * *
プロジェクトは佳境を迎えている。だけど、私の頭の中は一ノ瀬課長のことでいっぱいだった。
あの日以来、一ノ瀬課長は私によそよそしい。いや、別に冷たいわけじゃない。仕事上の指示は今までと変わらない。
でも……距離がある、気がする。
「辻、この香りのバランス、どう思う?」開発部からの質問に、「あ。はい――」機械的に答える。
目の端で、広い背中を探す。会議室の隅で、資料を確認している。
近づきたい。
話したい。
あの日のこと、説明したい。
でも、声がかけられない。一ノ瀬課長の周りには、いつも別の社員がいる。
タイミングが、ない。
違う。それは言い訳だ。本当は、怖いんだ。また、あの冷たい声を聞くのが。「そうか」と言って、背を向けられるのが。
試作品を手に取って蓋を開けると、フローラルな香りが広がった。
——これじゃない。
私が求めているのは、この香水の香りじゃない。一ノ瀬課長の、あの香り。朝の空気のように澄んだ、甘くて優しいフローラル。
あの香りに、もう一度包まれたい。
「辻さん? 大丈夫ですか?」
開発部の担当者の声に、はっとする。いけない。仕事に集中しないと。でも、どうしても。一ノ瀬課長のことが、頭から離れない。
プロジェクトは佳境を迎えている。だけど、私の頭の中は一ノ瀬課長のことでいっぱいだった。
あの日以来、一ノ瀬課長は私によそよそしい。いや、別に冷たいわけじゃない。仕事上の指示は今までと変わらない。
でも……距離がある、気がする。
「辻、この香りのバランス、どう思う?」開発部からの質問に、「あ。はい――」機械的に答える。
目の端で、広い背中を探す。会議室の隅で、資料を確認している。
近づきたい。
話したい。
あの日のこと、説明したい。
でも、声がかけられない。一ノ瀬課長の周りには、いつも別の社員がいる。
タイミングが、ない。
違う。それは言い訳だ。本当は、怖いんだ。また、あの冷たい声を聞くのが。「そうか」と言って、背を向けられるのが。
試作品を手に取って蓋を開けると、フローラルな香りが広がった。
——これじゃない。
私が求めているのは、この香水の香りじゃない。一ノ瀬課長の、あの香り。朝の空気のように澄んだ、甘くて優しいフローラル。
あの香りに、もう一度包まれたい。
「辻さん? 大丈夫ですか?」
開発部の担当者の声に、はっとする。いけない。仕事に集中しないと。でも、どうしても。一ノ瀬課長のことが、頭から離れない。