Un BUTTER
出世街道スタート地点までの助走では、半期ごとの個人営業目標達成が求められる。
六神は今のところ、すべて3割増しでクリア。加え、部署目標にも貢献してきた。特に見込み顧客を数匹たたき起こし、定期的な輸出案件を狩りとってきたのは大きい。
しかも六神が中途で入った採用試験で、六神は約50倍もの倍率で入社している。社内広報誌に載っていた。
通関士の資格持ってるとかTOEIC880点というのも本当なのだろう。ただ難関ともいえる中途採用を勝ち取ったのは、六神の前職からの影響も大きいと思うのだけれど。
六神はなぜか、前職を私に教えてくれない。ちなみに本人曰く「フリーター兼Vチューバー」だったのだそう。
この六神の前職については、過去3打数無安打で終わったため、私もあまり深く考えず、掘り返さないように努めている。
「そろそろお昼だね。なんか買い行く?」
「あー春風は服ないし、俺買ってくるわ。何がいい?」
「主にプリン体」
「“しそ漬たくあん”どこいった 笑」
12時近くになって、ようやく私たちは、健康で豊かな食生活の実現を目指すことにした。
「わざわざ服まで洗濯してくれなくてもよかったのに。」
そしたら一緒にスーパーでお買い物とかして。夫婦ごっこができたのに。
私がそんな乙女心を抱いているとはつゆ知らず、この六神はとんでも発言をしてきた。
「いや、さすがに服洗濯しないと臭すぎだろ。」
「……は?」
「は?って。」
「……」
「あんな事態まねいといて。服洗濯しないとかやばすぎだろ。」
「……」
くさい?くさいってあの“臭い”ってやつ?
私が?私の服が?私という生命体が?あるいはつぶ貝キムチが?
洗濯洗濯って。そりゃ洗濯機もくさくなるよ?と、これ以上“くさい“ばかりにとらわれていても仕方がないので。
というか、「あんな?」?って、どんな?
記憶を掘り起こそうとする私が、どんなまぬけ面だったのか。六神が、怪訝そうに私を威嚇する。
「……てかもしかして、…覚えてない?」
「……え、な、なにを」
「どっからどこまで?いやどっから覚えてる?」
彼シャツを着たまま立ちすくむ私。このままタイムカプセルに入れて埋めてもらえるとありがたい。
「いやマジで。」
六神が、なぜだか必死に追求してくるわけで。
今すぐ確認したい欲求丸出しというよりも、お前記憶ないまま彼シャツで呑気にビスケット食べてたのかよ。といったところだろうか。
「…………さーせん」
「っまじ、かよッ」
私のふかい謝罪に、六神が信じられないといった表情で私を見上げる。
「なにしてんのお前。」
「へ?」
「げろまみれのお前をうちまで引きずってきた俺の苦労は?」
「う、そ。」
聞けば、片っ端から普段飲まないアルコールを摂取した私は、居酒屋で思いきり吐いたらしいのだ。ズボンまでびちゃびちゃになるくらい。
六神は居酒屋にいたお客さんたちに謝罪し、お店の店員さん、店長さんにも頭を下げ、すぐに私を抱えながら逃亡。
無事脱出した二人は、あまりのにおいにタクシーに乗ることもできず、近くのラブホに突入。しかしなんと金曜日とあってか、すでに満室だったそうな。
とりあえずコンビニでタオルとTシャツを購入し、外にも関わらず私の身体を拭いて、上のシャツだけTシャツに着替えさせたという六神。
そんな六神は、なんでも面倒をみてくれる世話焼きのイケメンダーリン。ではなく、介護をするベテランワーカーのようだと思った。
ひたすら「ごべんねごべんね」と平謝りする私とベテランワーカーがようやくタクシーに乗り込むも。当然運転手さんには窓を全開にされたという。