Un BUTTER
そして、逆側からビスケットを唇で挟んだ六神千都世が、私に深いキスをした。
ビスケットの甘さとしょっぱさが広がって、今までの塩な六神からは想像もできない事態に驚く、よりも。
六神からの深いキスに、あっという間に実来春風は侵さてしまった。
「っん、」
私の唇を、最後についばみながら離れる六神。
いつどこからかは分からないけれど、自分の全身にほてりが灯っていることに気がついた。
あつい。今にも塩分が加熱されすぎて、電気がはしりそうなほどに。
六神千都世の、笑うと大きめになる口元が。
私をみて、そんな顔してくれるの?っていう、甘い顔が。
好き。
今になって本気でおとしにくるとか。
狡いけど、大好きだ。
六神に渡されたトートバッグから、替えの下着を取り出し、そそくさと履いた。
「用意周到か」ってつッこまれそうなところでも、そこは大人。恋人としてのエチケットというか、そういうもんとして見逃してくれるらしい。
多分、未遂ハニートラップなんてバレることはないだろう。
「俺のTシャツ、着とくか。」
六神がクローゼットから、自分の黒いTシャツを取り出してきて、私に彼シャツなどさせようとする。
「うで、通して」
「……は、い、」
「とんねる開通」
Tシャツの袖穴から手を入れられ、私の手を捕らえてひっぱり出す。六神が「ガラにもなく照れてやんの」と言ってくるので、ガラにもなく存分に照れてみた。
「ばばーかばーか、ばばばーかふぅ」
慣れないことはするもんじゃない。
ハニートラップとか。私がダーリントラップにはめられてやんの。
晴れてお日柄もよく、彼シャツ姿になった私。もそりと布団から出て、六神と二人、なんでもない時間を過ごした。
「そういや課長に、お前来期異動あるかも。って堂々と匂わせ発言されてさー」
「“堂々“と“匂わせ“って対義語じゃない?」
「そこくるか。国際営業部って海外イッタっきりなんてのも聞くから、」
「うちの海外赴任はハイパーレアだよ?モンゴルの大草原を一週間完徹で彷徨ってもお目にかかれないくらいの。」
「あとユニークスキル保持者とか?」
「そうそう。あ、しそ漬たくあんかじりたい。」
「春風のユニークスキル、塩分過多によるむくみ発動」
隣に並んで座っていた六神が、私の頬をムニッと、つまんでみせた。
「え?うそ?顔、むくんでる??」
「昨日あんだけつぶ貝キムチつまんでればなぁ」
「………」
ハニートラップ目論んでる女でもキムチ食べるのか。
今度は反対の頬を、自分でムニッとしてみせた。そしたら多分、ユニークになった。
かなりChatGPT並みの会話を装おってみたけれど、異動のくだりで、実は内心ドキッとしていた。
海外赴任はないにしても、他府県への異動は充分にあり得る。中小相手に戦ってきた初級ハンターは、3年目にしてすでにエンゲージメントのゲージが満タンなのだ。
わざわざ課長から打診(仮)されたということは、きっと異動というのは濃厚。そして私がみてきた例にならうのであれば、彼は出世街道のスタート地点に立たされていることになる。