Un BUTTER

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よく考えたら幸せなんて単純なもの。

それをわざわざ複雑にするから不幸になる。


こんなに好きで好きで、こいつへの気持ちは右肩上がりなのに。

夜一人でビールを飲みながらどろどろな愛憎ドラマを見ている私のメンタルは、反比例するように右肩下がり。

ああー、私も六神に監禁でもされないかなー。 







「六神ー!今かえりー?」

「俺の幻聴かな、ハツラツとした元カノの声が聞こえるんですけど。」

「元カノも半年も経てばただの同じ会社の人。」 

「実来のレーダーチャート、“気まずさ”ゼロか。」

「残念。“過去に囚われない”が100なの。」

「あと“他人との隔たり”もゼロだったっけ。」

「そうなの?そら知らなんだ。」

「よくもまあ知らんオヤジとたまたまバーで仲良くなっただけで野球観戦とか行けるよな?」

「内野席だったからね。私そんな野球に興味ないし。」

「そういうことじゃないんですけど。」


いつも明るくて、他人との壁を作らない実来。

それは大学時代からずっと変わらない。

同じ法学部だった実来。

よく講義の最後、時間が余ると「質問ある人」を教授が募集する。皆早く終わりたいし、そもそも大学の講義なんてほとんどの生徒が右から左に受け流すってのに。

実来はそういう中でも平気で質問するヤツだった。ちょっと変わったうざいヤツ。

でも周りからの評価は上場で、実来は“そういう奴”認定印を押されてたから、個性として認められていた。


特に教授からは気に入られていた。半分以上がやる気のない大学生の中で、率先して質問しにくる大学生をかわいいと思わないはずがない。

実来が教授室に出入りしているのだって、俺は知っていた。

この会社に入った時、実来の方から話しかけてきた癖に、俺の名前については「全く知らない。」と堂々と言われた。特徴が涙ぶくろってだけで、よくもまあ話しかけてきたなと思う。

でも俺は知っていた。

実来春風という名前を。


「そういえば三課はどう?」

「一課と違って大手メーカー様だらけだからな。入口から違いすぎる。とにかく担当までいきつくまでが遠い。」

「書類も倍になるもんね。受付嬢とか可愛いの多いの?」

「美人でとろそうなのと可愛くて強そうなのはいた。特に自動車メーカーは外見重視っぽい。」
 
「半導体不足は解消しそう?」

「まあ回復傾向にはあるよな。ただ製造装置の輸出規制がまた追加されるから、経産省の許可取る手間が増えるわ。」

「三課の代理申請担当になったら私胃潰瘍とうつ病で休職する自信ある。」

「大丈夫。公認元カップルが早々同じ部署にはならんから。」

「人事部に池駒みたいなのがいないことを祈る。」

「それな。」

 
暑さが残る下期。実来と別れたタイミングで俺は異動になり、一課から、別フロアの三課へと移った。

付き合っていた約半年間は、社内の人間に知られることはほとんどなかったと思う。でも実来がげろったあの事件、つまり別れる前日に、たまたま居酒屋にいた社内の人間に知られた。

「六神さんと実来さんて付き合ってるの?」に対し、「いや別れましたけども。」と誰かさんが普通に返したのをきっかけに公認元カップルとなった。

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