Un BUTTER


「か、かのじょに、わるいって、」

細やかな抵抗に出て、六神を試す私はそこそこ面倒な女だ。


「ほんとーに悪いとおもってる?」

「あッ、」
  
「ここすごいんですけど」


でもすーぱー六神には通用しない。

六神の長い指がショーツ越しに這わされて、私の聞き分けのない身体が、悔しくも反応する。 


「こわいの好き?それかきもちいだけのやつ?」

「んん"、」

「ちゃんと俺みていえって」

「や、だめむがみ、」

「だめ。むがみのおなまえなんですか。」

「ふふっ」 


腕時計をする手首をぎゅっと捕まれて、そのまま六神の瞳に自分のだらしない顔が映し出される。


「ち、とせ」

「……ん?」

「千都世」

「よし。」

 
それを合図に、六神が不意をつくようなキスを一つする。

こんなに間近で迫られたら、誤魔化しようがない。反らせない、逃げられない。見透かされるような六神の瞳にすら、私は虜になっていた。

 
「狂わせてやろっか」

「なっ、キザすぎて、なんか変!」

「もっとカッコつけろってゆったのどこのどいつだよ」

「え、わたしそんなことゆった?!」 

「ゆったー」


何一つ覚えていない私。

あれ。

もしかして、もしかしなくとも


「私たちあの時、し、しちゃってた……?」


そうだとしたら、悪者は完全に私一人だ。

でも六神は、私の記憶を探す旅などお構いなしに、宣言通りの狂わせるようなキスをする。

息継ぎも絶え絶えに、部屋の空気も取り込めないほどの深いキスを。

噛みつくようなそれじゃない。じわじわと汗ばむような、私の唇に深く深く刻み込んでいくのだ。


六神の狂気に満たない爪先と、甘く余韻を残す指の腹が交互に私の身体を辿り始める。

腰から胸に上がっては、胸から一気に降下する指は、まるで私を慈しむかのように扱うのだ。


あの日の甘い六神を優に越えて、私の知らない六神が今、目の前にいた。
 
私の手首をつかむ六神の爪が、腕時計の文字盤に当たり、かすかに音を鳴らす。

私の唇からゆっくり離れて、六神の瞳が腕時計に鋭い視線を送る。その様子に、文字盤に爪が当たったのは故意によるものだと判断した。

 
「これ、どうした?」

「……え」

「自分で買った?この腕時計。」


らしくないと言われた私の腕時計は、革製の黒いベルトに文字盤が木製のブランドものだった。

らしくないと言われても私にはどうしようもないことで、今日こんなことになると分かっていれば、腕時計はしてこなかった。


今このタイミングで、どう説明していいか、いや、どうシラを切ろうか悩んでいると、どこからか着信音が鳴る。

音の距離から、おそらく玄関にある六神の鞄の中からだろうと判断する。その着信相手が誰なのかということも、あらかた予想がついてしまう。

六神は一瞬、玄関の方を見て、どこか思い悩むように黒目を動かして。

当然私はその反応にいい気はしない。

できれば着信音など気にならないくらい、元カノに無我夢中になっていて欲しかった。

だから試したんじゃん。かのじょにわるいって。

苦しくないといえば嘘になるし、かといって今まさにシラを切るいいタイミングともいえてしまう。

でもこの男は、今カノの着信よりも、元カノと過ごす背徳的な時間よりも、私の腕時計が気になって仕方がないらしい。





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