Un BUTTER


最近ではユニコーン企業のブルーだかグリーンだかの水素を輸入する契約を取ってきたと、うちの課長が嫉妬深そうに小言を漏らしていた。
 
人を馬鹿にしたような朋政先輩の言い草は、傍から見ればパワハラとも受け取られかねないが、先輩は私しか馬鹿にしない。

誠に遺憾ではあるけれど、先輩の教育下で共に育ってきたまゆゆと私の間には、何かしら目に見えない違いが存在するらしい。
 
その真相に迫ってみたのが、先週の誕生日でのこと。

因みになぜ先輩が私の誕生日を知っているのかといえば、初年度、まゆゆが自分の誕生日に「何か下さいよ〜!」と言ったのがきっかけで、ついでに私の誕生日を聞かれたからだ。

先輩が異動するまでは、私もまゆゆも誕生日に、先輩の使用済ボールペンとか、先輩が街中で貰ったティッシュとか、プライスレスなものばかりを貰っていた。




でも今年の誕生日は違った。横浜支店に視察で来ていた先輩に、たまたま暇ができたから何か食べに行こうと誘われ、裏通りにぽつんとある小粋なワインバルに連れて行かれたのだ。


サングリアでほろ酔い気分の中、「なんで先輩は私にだけ当たりキツイんですかー?」と聞いてみた。

 
ベージュのスーツに身を包み、アッシュブラウンでサイドパートの前髪をかき上げる先輩が、満面の笑みを見せこう言ったのだ。


「生理現象として、好きな女性は虐めたくなるから!かな。」
 

うぬぼれ気味の私が、「後輩として一番信頼しているから。」と予想していた答えをすんなり超えてきた。

つまり優秀な先輩に、後輩として一番に認められていると思っていた信頼の壁が、一気に取っ払われてしまったのだ。


その心境の中で、あのブランドものの腕時計をプレゼントされればまさに豚に真珠。

私にとっては仕事上の先輩でしかなかったのだから、六神と付き合っている時に二人でご飯を食べに行ったのだって、負い目みたいなものは一切感じなかった。

六神はあまり自分の話をしないから、私もわざわざ先輩とのご飯を言う必要はないと思ったし、それをよく思わなかったのであれば、直接言ってくれればよかったと思う。

まあ、今更何を言ったところでどうにもならないのだけれど。



朋政先輩からの内線を切ってメールボックスを開けば、メールはすでに見切り発射で5分前に到着していた。添付ファイルが2件と端的な本文が記されている。


『輸出証明書原本は農政局に直接取りに行くから窓口受取にしておいて。そのまま自社便ある配送業者に持ち込むから、とにかく許可おりたらすぐ僕に連絡ちょうだい。』


農政局から発行される原本は、直接海外の輸出先企業に送らなければならない。

今日を起算として、輸出証明の許可がおりるまでの日数を卓上カレンダーで辿っていく。おおよその日にちを予想したところで、朋政先輩に返信を入れようとキーボードに指をのせた。

突発的な忙しさが到来する中、前の席に座る輸入担当のまゆゆと目が合った。


「福間さん、広州と釜山着分のアライバルノーティスって届いてる?本部クライアントのやつ。」
 
「あ、メールきてる。」

「打ち出し求む。」

「了解。」


まゆゆの様子が、なんとなく可笑しい。

元気がない気がするのは私の思い違いだろうか。

もしかしてまゆゆ、私にとんでもなく悪いことをしたと思ってる?

六神に彼女がいることを知らずに二人きりにして、もれなく罪悪感と反省の色を人前に晒してしまうほどに?


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