Un BUTTER


でもこの長身でスタイル抜群のまゆゆという人間は、中身が天然に近い。

だから予想の斜め上か、斜め下のネタを持ち込んでしまうのだ。


「きーてよぱるるー!!」


今日は人気《ひとけ》の少ない8階にあるラウンジでお昼を食べようと言うので、心の準備をしていた私。いや、金曜の夜のことを私に聞くんじゃないんかい。 


「……どったの。」

「どーもこーもないよ!!天変地異だよ!アルマゲドンだよ!!」

「どっちかにしないと宇宙に大迷惑だよ。」

「もうわたし生きてけない、お嫁にいけないっ!」

「え?そんなに死にたいほど恥ずかしいことしたの?」


私がメロンパンにかぶりつく中、まゆゆが絶望の表情で額に手を添える。

絶望したいのはこっちだよこのおバカ。

絶対に私の方が死にたいほど辛い思いをしたし、ずっと惨めだったはずだ。


あんなの勝手に酔って煽って、魔が差したところに彼女からの着信音で目が覚めましたといっているようなものだ。

何一つ謝罪文のメッセージが届いていないのがなによりの証拠で、今日の朝一番に謝りに来るんじゃないかと期待して、早朝出勤した自分を殴ってやりたい。

会いたくないのに会いたい気持ちがある私は、結局いつまで経っても惨めな状況を、自ら作りにいっていた。

先輩からのいらない仕事と、友達からの降って湧いたネタ提供で少しは緩和されるかと思っていたけれど、今も六神からのメッセージを待つかのように、机の上にはスマホを仰向けに寝かせている。


「金曜日さ、あの後、一希《かずき》んち行こうと駅まで行ったんだよね。」

「うん」

「そしたら一希から電話あってさ、」

「うん」

「土曜朝から部長とゴルフになったから、泊まりに来るのまた今度にしてくれる?って言われて。」

「ゴルフってそんなすぐに予定入るもんなの?」

「そんなわけないじゃん。」

「そっか。」


まゆゆの彼氏の一希《かずき》さんは、私たちよりも2歳年上で、まゆゆが大好きな韓国女性アイドルのライブに行った際に知り合ったらしい。

損害保険会社に勤めている彼は、金融会社特有のゴルフ接待にも時折参加しなければならないらしく、当然のように貴重な休日がなくなるのはよくあることなんだとか。


「で、なんでいきなりゴルフ入るの?って。ゴルフコースなんて前日に予約取れないでしょ?って言ったらさ、一希がキレだして。。」


まあうちらみたいな事務社員からしたら、営業マンの休日接待なんてそうそう理解できるもんじゃないよなあ。


「ゴルフ接待に行くはずだった先輩がインフルになって、代わりに行かなきゃいけないことになったって。俺だって好きで行くんじゃないんだって。」

「…インフル?6月になるこの時期に?」

「私も同じこと言ったの!!こんな熱い時にインフル?って。そしたら春でもインフルは流行るし、そんなに俺を疑うならもういい!って電話切られてさ。」


ああ、5月中旬まではインフル流行る年もあるって聞いたことあるかも。


「でもさ、そんなキレる方がおかしいじゃん?」

「……うーん、かな。」


私も六神も散々しょーもないことでキレてますけど。


「そこから、一希に連絡取れなくなっちゃって……」

「…んー…」

「で、酔ってたってのもあってさ?駅で泣いてたら」

「うん、」

「たまたま池駒に会って。」

「あー、まゆゆの後で帰ったね」 

「で、慰められてさ、」

「……うん」

「二人とも酔ってったってのもあってさ、」

「……うん?」

「その、」

「う、」

「ビジネスホテルで、やっちゃって。」

「…………」 


おい!あんたがかい!

あんたがやったんかい!!

あんたらはやって、うちらは最後までやってないんですけど!

どーゆうことよ?!




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