Un BUTTER
じゃあもうすでに行き着いてしまった二人が、別れた後、恋人未満の関係を持つ場合はなんていうのか?
『ああ、俺ら悪友以上せフレ未満って?』
関西人に転生してみたら、も少し面白いことが言えるんじゃない?
私、実来春風《みらいはるか》27歳と、彼、六神千都世《むがみちとせ》26歳の行く末は、一体何だというのか―――――
「オツカレサマですー、三課の六神《むがみ》ですけどー。」
「はいはい、はいなんでしょう?」
「その声は実来《みらい》さんでまちがいないでしょうかー?」
「1586の内線番号にかけてきてるなら間違いないですね、3482さん。」
「そんな刑務所みたく、4ケタの数字で人を認識してるとか実来さんの人格を疑いますー。」
「そうですか。ですが今後私が電話に出た時は、3秒で要件を話してもらえるとありがたいですね。」
「3秒も時間を埋めるのに、どれだけこっちはネタを用意しなきゃならないと思ってるんですか。あ、3秒経ったんで要件話しますね?」
その後、要件をほんの30秒で終わらせた六神千都世からの内線電話を切って、はあと息をつく。
足元のゴミ箱にいる、あんバターブリオッシュのごみを眺めれば、お昼全然足らなかったな、と今になって空腹を感じ始めた。
「とても付き合って別れた二人とは思えないよね?あんたたち。笑」
前の席に座る、同期の福間真優《ふくままゆう》こと、まゆゆがデスクトップの横から顔を出した。
後ろできっちり結ばれたポニーテールが揺れて、ププッと笑いながら、私のデスクへと顔だけで乗り込む。
「私ですら信じられないよ。なんでこんな普通に接してんのか」
「昔から悪友みたいなもんだったんだっけ?」
「いや?学生時代はむしろ赤の他人寄りだったわ」
「はあ?付き合って別れたら仲良くなりましたーっ?て??」
「そう、前より言いたい放題の仲になりましたーって。」
今だって、申請書類の英字が一文字間違ってただけでわざわざ電話してきやがって。まさかのJAPANがJAVANになってたわけだけども。
社内メールで要件済ませればいいものを。
ヤツは切り際に「実来さんがJAVAN在住とは知りませんでしたー」と言ってきやがったのだ。
ヤツに見つかるミスほど嫌なものはない。
元彼にミスをからかわれるほど嫌なものもない。
まだ好きな相手に、モールス信号並みのコミュニケーションを求められても私に心の余裕はない。
なんで付き合う前よりも別れた後の方がずっとずっと好きになってるのか、なんて。
考える余裕もないため私は次に進むのだ。
まゆゆがデスクトップの画面に顔を戻してから約3分後、そっとまゆゆの手が私のデスクへと侵入する。
まゆゆの手の甲に貼られた黄色い付箋には、“今日いっしょ飲みいこ”、と書かれていた。
まゆゆとは一緒に新卒で入社した同期だ。今年で5年目になる。私が社内で仕事以外、一番に信頼を寄せている存在。
なぜか二人とも、希望は国内営業部だったのに、国際営業部の事務員として配属されてしまった。
海運業界ではそこそこ名の知れた央海倉庫《おうみそうこ》という会社で、私とまゆゆは横浜支部、国際営業部一課の所属。私は輸出関連を担当している。
主に商社やメーカーの代行で、農水省や経産省に提出する輸出申請書類をオンライン入力するというもの。
どうでもいいけど、六神は国際営業部三課の営業マンで、主に大手メーカーを相手に輸出入を提案、交渉をしている。
さっき六神にミスを指摘されたのは、間違って農水省管轄の農政局から直接外線で三課に連絡がいってしまったため。
二課にも三課にも、私のように申請代行業務を担当している人がいるから、あちこちに連絡がいってしまうのはよくあることだ。