Un BUTTER


高身長のまゆゆは、いつもデスクトップから半分顔が出ていて、六神から内線があるたび私に変顔を寄越す。今年度、初めて席がお向かいさんになったもんだから、まゆゆはテンションが高いのだ。
 


「は……、今日って。同期会だったの?」


農政局からの修正依頼に手間取って、まゆゆとの飲みに15分ほど遅れて大衆居酒屋に来てみれば、なんとまゆゆ以外の同期3人と、六神がいた。


「そそ、同期会。実来《みらい》はハブられて誘われてないかと思ったわー。」


すでに泡が散ったグラス片手に、六神が目を細め、口角を上げて私を見た。


さらさらな黒髪ヘアから覗く、一重の切れ長の目が、今日も嫌味たらしく涙ぶくろを作っている。


「いや六神、同期じゃないじゃん。」

「1年半遅れて入っただけじゃん。ほぼ同期じゃん。」


「こいつ同期仲間がいないから寂しいだけなんだよ実来ちゃん。許してやって!」


私を“実来ちゃん”と呼ぶ、同期の池駒《いけごま》♂が六神の頭を撫でながら言った。

許すも何も。私に許しを乞う方がどうかしてる。

池駒は物流部のため、現場が多く、今日も私服で出勤らしい。スーツ二人に挟まれ、一人だけ黒いTシャツを着ているから一瞬店員が紛れているのかと思った。

そしてあたかも『どうぞこちらに』といわんばかりに、池駒が六神の前の空席を、利き手で差し出した。

どうかしてる。




隣の酔ったオジちゃんらに、「合コンかあ?!若いうちに楽しんどけよぉ!」と野次を飛ばされるも、私がすかさず「いえ、ただの顔見知りの相席でーす。」と笑顔で返しておいた。


「すぐお前は酔っ払いに絡む」
「絡んできたのは向こうだし」
「酔ったお前はアレよりもっと激しいけどな」


六神が私の顔も見ずに、ドリンクのメニューを渡してきた。


激しいとか言うなや。


と心の中でツッコミをいれたところで、大きく手を振り、店員さんを呼んで、可愛く「カシスオレンジでえ」と注文をする。


「珍し〜ねぇ、ぱるるんが“生”頼まないなんて。」
 
「今日は深夜に見たいドラマあるし、あんま酔いたくないからね。生頼むと止まんなくなるからさ。」


隣に座る、私を“ぱるるん”と呼ぶ女史、刈谷《かりたに》がジョッキを両手で持ち、不思議そうに、こてんと首をかしげ見上げた。


その刈谷のネイルには、どうやらクマのキャラクターが住んでいるらしい。自由きままで不思議な国のクマさんが。

 
「カシスオレンジとか学生限定だから。実来が頼んでも、かわちぃにはなんないからな?」


目の前に座る六神が鼻で笑って、その鼻につく笑いが隣の池駒へ、そしてもう一人の同期である大輪田《おおわだ》くんへと伝染《うつ》る。


私が六神に向かっておしぼりを投げつけると、一番遠くにいる大輪田くんが言った。


「すごいな、六神のメンタルと実来さんのメンタル、うまい具合に比例してる。」

 
「常に右肩上がりでな」
「右肩下がりでしょう」

 
今にも線グラフに表しそうな大輪田くんはさておき。

六神が、私が投げつけたおしぼりでなく、自分のおしぼりを渡してきた。自然に。

こんな小さなことにも、心の中で大きくニヤつく自分がいる。

と、話を戻すと、ここにいる同期は皆、私と六神が付き合ってたことを知っている。なんなら社内の約7割は知っていることだろう。

むしろ、付き合っている最中の方がずっと隠し通せていたと思う。




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