Un BUTTER

―――――……とまあネガティブな自分に浸っていたところに、運悪く貞子亜種に漬け込まれたわけで。

水絵は面白いおもちゃを見つけたかのように、俺を暇つぶしの恋人ということにしている。

もし俺が友人に、こちらが彼女です。なんて紹介しようもんなら、水絵は手を叩いて俺を馬鹿にすることだろう。結局俺たちは泣く泣くセフレみたいなもんになってしまっている。

水絵は心理学部卒業生で俺らの先輩にあたるらしい。学年が3つ離れているとはいえ、どこから探られるか分かったもんじゃない。やっぱりあんな大学中退しておくべきだった。


「はるかちゃんも同じ学部だったの?」

「…………」

「今はるかちゃんは何才?どこで働いてんの??」

「…………」

「…桐生君にこの画像見せちゃおっかなあ〜。」


無言の俺を探るのは無意味だと悟ったのか、早くも桐生を引き合いに出してきた水絵。

俺と実来が同じ大学出身だと分かれば、当然その接点である桐生に目が向けられるだろう。

本人に見せられるよりもいやだ。絶対にいやだ。

桐生と実来の直接的な繋がりは、多分ない……と思う。でも同じ中国憲法を履修していた実来のことを全く知らないわけではない。

なんせ質問魔の実来だし。あれは良くも悪くも悪目立ちがすぎた。

その中国憲法の授業を、桐生と隣で受けていた時のこと。


『あの子、見てて痛々しいけど顔はけっこうえろいんだよなあ。』


質問で授業を遮る実来に対し、桐生が言った言葉を未だに覚えている。
 

『目尻の切れ目がさ、なんか彫り深いしちょい垂れ目だし?ああいうのがころっと悪い男に騙されて痛い目みると、めちゃめちゃいい女に変貌したりすんだよなあ。』

 
200人収容の大教室でめちゃめちゃ見てるなこいつ。双眼鏡か千里眼でも使ってるのか。と隣の桐生を遠い目で見た。でも同じ男として、感じ取るものは一緒なのかと思った。


これは今の会社に入社してから知ったことだが、実来は中学生の時に父親を病気で亡くしている。

父親の医療費もそれなりにかかっただろうし、学費だってばかにならない。学生時代は漠然と質問魔として見ていたが、今思えば父親のいない環境で生活が苦しい中、大学を卒業するのに必死だったのだろう。

若いうちから苦労していると、自然とその蓄積された苦労が大人びた魅力に繋がるというから、実来がそれに当たるのかもしれない。

そんな実来を知れば知るほど好きになるのは当たり前で、それと同時に俺の軽率な行為による罪悪感も募るばかりだった。







話はとんで、同期会の次の日のこと。 


「ちと君、これってなに?」


本当に朝の8時からうちに乗り込んできた水絵は、ベッドの下にあるそれ(・・)を取り出してきた。


「……え?なになに、もしかして、これって!?」


小さな箱型に白い包装紙とシーリング調のシールで飾られたそれ。どこかの誰かさんみたいに一流とまではいかない二流ブランドの腕時計が入った箱。

誕生日に渡そうかと思えばすでに帰った後だったし。いつ渡そうかと迷っているうちに、昨日の唐突な同期会で一流ブランドを身に着けた実来が現れて。

正直、苛立ちを隠せなかった。 

それでも酔いに任せて、うちで渡そうかと思って誘ってはみたものの。

乱雑に心を乱しまくった俺は、実来に不純行為を働いてしまった。しかもあんな中途半端な状態で真夜中に帰らせて。一から十まで不純だらけだ。

今度こそ本気で嫌われたかもしれない。

いや、自分から誘っといてこんなことをいうのはどうかと思うが。昨日は抱くとか抱かないとか。

そういうんじゃない。

あのままずっと一緒にいたかった。ただそれだけだった。



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