Un BUTTER


「お前だって、いい彼女っていうか。いい女なんじゃないの。」

「へ。」

「事務職でも人脈できててさ。名指しで指名って。クライアントから信頼されてる証拠じゃん。」


自然と瞳孔が開いていく私。

六神が?仕事で私を褒めるって。

一瞬、目頭が熱くなって。出港準備の風がたち、自分の髪が頬にまとわりつく。

人脈だなんて大袈裟だけど、もし六神の目にそう映るのであれば、それは私を取り巻く環境と、いい先輩に恵まれたお陰だ。


「対応力は、あれだよ、朋政先輩のお陰だし。」

「………」

「あの人新卒の時から厳しいからさ。あの人の基準に必死についていこうとしてただけだし。」


自分で言ってから、ここで朋政先輩の名前を出すのはまずかったかなと思った。

六神に褒められているなら、お世辞でも六神のお陰と機転を利かせるべきだったかもしれない。やっぱり私はいい彼女には向いていないようだ。


「……そういや。付き合う話は、どうなったの。」


埠頭から出港を知らせる汽笛と、波の音が重なって聞こえ始めた。それでも今の六神の声は、しっかり聞き取れていた気がする。



「まだ、返事してない。」

「そっか。」

「うん。」

「あとさ、これは冗談で言うんだけど、」

「ん?」

「お前、まさかと思うけど、池駒となんかあったりしないよな?」

「……は?」

「いやさっきコンビニの前で、やたらひっついてる男女いるなって思ったら、まさかのお前らだったから。」

「………あるわけないじゃん」

「だよな。冗談にもほどがあるよな。」


……なにがどうして私と池駒が疑われることに??


午前中、何件かの書類に、出港した船名を手書きで記入している最中、ふとデスクトップのスクリーンセーバーに見とれてしまった。 

濃紺の夜空に星が散りばめられ、一定間隔で交代に光る星空。

六神と彼女と親しげな姿に。それから、六神からの褒め言葉に。どちらも180度違う感情なのに、どちらも泣きたくなった事実を思い出していた。

それよりもなぜ泣けなかったのか。



午後。 

ぼーっと出港状況をパソコンで確認しているところに、廊下から女性社員の甲高い声が聞こえ始めて、ハッとし瞬きを繰り返す。

でも女性社員の声は、なぜか一課の事務所内にまで入ってきて。それとは真逆にまゆゆが何とも嫌そうな顔をするから、何事かと後ろを振り返った。


「実来何してんの!早く行くよ!」

「……は?」

「今日は午後から農政局に証明書直接取りに行くっていってあったじゃん!」

「『じゃん。』って。え?せんぱ、課長が行くんじゃないんですか?」

「何いってんの。申請者本人がいった方がスムーズに事が運べるでしょ?ってそう言ってあったのに、聞いてなかったの?!」


ダークグリーンのジャケットを手に持ち、白い縦ストライプシャツのボタンを2つ開けて、風格あるスタイルが私を睨み下ろす。








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