Un BUTTER
脳裏に六神の気怠そうな顔がちらついて、そんな六神の胸をたたき、意味もなく六神を責めた。
「ふっ…う"っ、」
責めれば責めるほど、六神が私から離れていく。
好きなのに。大好きなのに。
もうあっちにいってしまえばいいよ――――……
先輩が指で涙を拭いてくれて、ぎゅっと抱きしめてくれる。香水の香りがしてもおかしくない人なのに、爽やかな石鹸の香りがして余計にすがりたくなった。
「せんぱ、…わた、し、」
このまま、先輩の告白を受け入れようと思った。
私が今まで保留にしていたのだって、先輩にはよく分かっているはずで。私に、未練があることを。
それが分かった上でも私を好きだと言ってくれるのだから。
「春風、今から僕の言うことを、聞いてくれる?」
「え……」
「このタイミングで話すことでもないんだけど、なかなか会えないからさ。」
先輩が私の肩を持ち、そっと離すと、私の髪の毛を耳にかけてくれた。もし私がスパダリに転生したら、好きな子に同じことをやろうと思う。
「僕はほんとはね、昇進よりもまず、海外に行きたいと思ってるんだ。」
「か、海外?」
「うん。今オーストラリアに支店を置くプロジェクトが進んでてね、その前準備として駐在員事務所をオーストラリアに置くことが先月決まったんだよ。」
駐在員事務所は、海外進出の前段階として、現地調査を行うために設けられる事務所のことで、そこに駐在員を派遣するというものだ。
昔研修で、台湾への進出プロジェクトのプロセスを学んだことがあるのを覚えている。
「で、今年駐在員希望者を募集する話も出てて、僕はそれに応募しようかと思っててね。」
「え、……そう、なんですか?」
「もちろん選考に合格しないとオーストラリアには行けないんだけどね。」
「……オーストラリアって、こあらとか、ティムタムとか?」
「あとリンツにUGGに」
「UGG、私持ってない」
「え?女子は必ず一足は常備してるんじゃないの?」
「それよく言われます」
「あとオーストラリアは今、エネルギー資源がきてるかな。」
「ああ、もしかして、水素とか?」
「うん。」
先輩には、自分の可能性を試すためにも、オーストラリアとの橋渡し役として支店を設け、成功させたいという野望があるらしい。
本部長になって各支部長に指示を出すような、上澄みをすくう仕事よりも、もっと泥臭い仕事の方が先輩にとってはやりがいを感じるのだとか。
課長になったのも、部長からの推薦というのもあるが、海外で働くための足がかりの一つになればと昇任試験を受けたらしい。
「だから、もし僕がオーストラリアに行くことになったら、いずれ春風にも来てほしいと思ってる。」
「……え、ええッ」
「つまりさ、僕が言いたいのは、」
先輩が、私の手をぎゅっと握りしめる。そして気持ちを整えるかのように深呼吸をしてから、私を見据えた。
「結婚を前提に、付き合うことを考えてほしいと思ってる。」
「………な。」
「な?」
なんですと?
いや、確かに。たしかに私の年齢で今から付き合うとなれば、結婚も視野におく必要があるのかもしれないけれど。
そんな面と向かってはっきり言われてしまうと。普通にプロポーズに思えてしまうのは気のせいだろうか。。