Un BUTTER
「なんならもっかい付き合っちゃえばいいんじゃね?!」
ほろ酔いになった池駒が、大衆居酒屋の大衆に負けないような大声で言った。
で、六神が反論するよりも、さきに返す私。
「むりむり。六神、今彼女いるもん。」
「……え?六神って、彼女いんの??」
ひたすら砂肝ヤンニョムを食べていたまゆゆが、ザクロ色のサワーに手を伸ばしながら私を見た。
「うん、黒髪ストレート。ど清純派。」
「って、なんでぱるるが答えてんの?」
「前にたまたま帰りが一緒になって、六神のスマホに彼女さんから電話かかってきてさ。ついでに画像見せてもらった。」
「うはー元カノいる前で今カノから着信って!笑」
「てか元カノが今カノの説明するって。どうなの。笑」
顔を見合わせ、大爆笑するまゆゆと池駒。
机にひじをつき、その爆笑を眺めていた六神。
一瞬、ちらと横目で私を見て。
同じように噴き出す私に、ため息をついた。ようにみえた。
酔っ払いが集まると、ただの爆笑感染騒ぎだ。発生源は私だけど、そのネタを作ったのは六神だということを忘れてはいけない。感染経路は六神だ。六神のせいだ。
いんや。悔しさと哀しさがあふれ出そうなのを堪えるために、ただ自爆しにいっただけだったりする。
でも六神に彼女ができたと知ったのは、もう一ヶ月も前のこと。私の中で処理しきれていなくとも、処理しかけている案件だ。
「私とは正反対のタイプ選ぶとか、喧嘩しか売ってないわ。」
まゆゆを経て、刈谷から渡ってきたハニーチーズコロッケを口に運べば、甘じょっぱいが口いっぱいに広がった。
その、小さな幸せを大きく噛みしめる。
向かいに座る六神が、私の顔を見るなり、今きたばかりの生ジョッキを一気に飲み干した。
「元カノの遠吠えかよ。悔しかったらど清純になってみ?」
……やば。
六神のその言葉で、うまく笑えない自分がいて。あやうく顔面が崩壊しかける。
酔いに、任せようにも。学生限定カシスオレンジじゃ、社会人の私は酔えやしない。
隣で社説並に政治を語る、今にも酔い潰れそうなオジちゃんの声を、必死に耳に引き寄せた。
せき止められた甘くてしょっぱい涙を、無理やり飲み込んでから、大きく手を上げて、こう言った。
「とびことたくあんのおむすびと、金目鯛味噌のお茶漬けくださーい!!」
「ギャハハハ」
元カノの遠吠えは、早くもメシで〆られようとしていた。