Un BUTTER
「で、なに?本題はなんだった?」
六神の脚を組みかえる仕草に見とれそうになるも。船の汽笛に意識を起こされて、気になる話題にふれてみた。
「六神って。今の彼女と結婚とか考えてんの。」
まだ前職を聞くよりも、こっちの方が聞きやすかった。
きっともう、どんな答えが返ってこようとも、海に飛び込みたいとはさすがに思わないはず。
怖いものみたさって。超がつくほどの好奇心なのか、自分を完膚なきまでに叩きのめすためにあるのか、どっちなのだろう。
「正直、そこまでは全く考えてないわ。」
「へ、へえ。そうなんだ。でも彼女さんは29歳なんでしょ?さすがに向こうは考えてると思うな。」
「ないね。俺のこと絶対そんな風にはみてない。」
「え?」
「アラサーの癖に、まだまだ遊びたい盛りって感じだし。まあその方がこっちも気楽だけど。」
六神が机に肘をつき、海の方角に顔を向けながら言って。ポケットからスマホを出し画面をいじりだした。
「それって、なんのために付き合ってるの?」
「え?」
「え?じゃなくて。貞子さんにだって思うところがあるから付き合ってるんでしょ?」
「思うところ?」
「私と同い年の友達にだってすでに結婚して子供がいる子だっているんだよ?30間近で、もし本当に遊びだけで付き合ってんならわざわざ付き合う必要なくない?」
私は友達が多い方だと思う。周りの友達を見ていると、漠然と結婚式への憧れだったのが、徐々に子供を持つ憧れに変わってくる年齢なのかなと思う。
「……なに熱くなってんだよ。」
「そらなるよ!同じ女だもん!」
つまり私が言いたいのは、新しい彼女とそんな適当な付き合いをする未来のために、あんたと私は別れたとでもいうのか。
「はあ?しょうがねーじゃん。向こうはサラサラそんな気ないんだし。」
六神は再びスマホに視線を落とし面倒くさそうに触り始める。駄目だ。やっぱりこいつ、私をむかつかせる天才だ。
椅子から立ち上がった私は、六神の目の前までいき、その胸ぐらを掴んでやった。
「ふざけんな!適当な付き合いしてる女がわざわざ朝から職場まで送ってくれるわけないでしょっ?!」
「…………」
「女は好きな男の前では口からでまかせしか言えない生き物なんだよ!!もっと真剣にみえさんのこと考えてやれ!」
一瞬、平手で殴りかかったけど、営業という仕事に響くとまずいと思い、そこまでは出来なかった。
ただその殴れなかった手は、六神につかまれてしまった。
「離してっ」
「なあ、俺たちって、なんで別れたの?」
「はあ?ソリが合わなかったからじゃないの?!」
「コンビ組んだ芸人が決別した話はいいからさ。」
「っちょ、」
「教えてよ実来センセー」
爽やかな朝が台無しか。
六神がつかんでいた私の手を、今度は持ち替えるように腕をつかんできて。私は引かれながら六神の上に跨がるように座らされた。
コンクリの柱の影になってるとはいえ、こんなん他の社員に見つかったら始末書もんじゃなかろうか。
「やば、こういうガールズバーありそう」
「あってたまるか!ちょっおろして!」
六神の骨ばった手は握力を込めるかのように私の腰と太ももあたりをがっつりホールドしている。ズボンとはいえ、さすがに太ももは恥ずか死
ってこっちは真面目に怒ってんのに何さらしとんじゃい。
「てかあんた!こないだからおかしくない?距離感バグってんじゃない?!」
「そりゃバグるわ。こっちは散々お前に振り回されていい加減粗悪品にもなるよね」
「ね。ちょちょいまちっ」
六神が私をここぞとばかりに抱きしめてくる。距離感のバグ発生により、六神の顔が私の首元にうずくまった。もはや概念が死ぬ。
「ねえ、俺たちいつ別れたの」
「いき、くすぐった、」
「ねえ、いつ別れようなんて話した?」
「な……」
「勝手に別れたことにしたのは、どこのどいつよ?」
「……え」
泣き言いうみたいに、六神の吐息が弱くなる。
別れようなんて。確かに言葉にはしてないけど。
「あ、あんたが、私の貧相な身体みたって、欲情しないとかなんとかゆったんじゃん……だから、私にそういう感情がないんだとおもって」
喧嘩した後日、居酒屋で吐瀉物の顛末を見ていた男性社員に、「六神さんと実来さんて付き合ってるの?」って聞かれて。
だから私は「いや別れましたけども。」って。
「俺はあの時、別れたつもりなかったんだけど。」
「う、うそ。。」
「だから今、勝手に適当な付き合いしててなにが悪いの?」
「っ」
「てかこないだ朋政課長来てたらしいね。」
「……はなし、急カーブ並みに反れたね。」