Un BUTTER
  
電話の子機をいったん置いて、すぐにパソコンからデータを引っ張る。

まゆゆが「だいじょうぶ?」って聞いてくれたけど、それに返事できるほどの余裕はなかった。

あ、やばい

味八フーズ依頼分のカナダ行き商品「冷凍柚子皮」。確かに味八フーズから横浜港までの配送は冷凍便になっているのに。


私がコンテナの種類を冷凍にしなかったせいで。丸一日常温コンテナの中に放置されている、

ということは――――

自分の顔が青ざめていくのがわかる。背筋はそれ以上に凍り付いていた。自分が冷凍されている場合じゃない。


「ごめんすぐそっちいく!」


通関のカット日(締切日)と出港日を確認し、朝礼中の一課の皆に頭を下げ、すぐにコンテナのある現場へと向かった。

――――やばいやばいやばいやばい

通関カット日は明日で、出港日は3日後だ。池駒が気づいてくれたからよかったものの、もしこのまま出港していたら大変なことになっていた。

とはいえ、現場である倉庫に着けば、コンテナの中は水滴だらけだった。

柚子皮商品が入った缶にも水滴がたくさんついている。中には缶の底から、水が漏れているものもあった。


「や、やらかした」

「……缶だから、まだいいけど。一度缶のなか開けて商品取り出してみた方がよくね?」


ダンボールよりはまだマシという池駒が、積まれた缶を一つ出してくれて、黄色いバンドルを取り、二人で中身を確認する。

この商品の規格は、1つの缶の中に1㎏袋が10袋入っているというものだ。

商品は透明な真空パックの1㎏袋で、その中に黄色い柚子皮が入っていた。当然その透明な袋も水滴だらけだし、袋に貼られた成分表示シール(カロリーや賞味期限が書かれたシール)も濡れている状態だった。

まずい。手だてが――――

せっかく六神から貰った大事な仕事が

私を指名してくれた大事なクライアントの商品が

頭の中は自分がミスをしてしまったことでとりあえずパニックに陥っていた。冷静になれと自分に言い聞かせ自分の頬をたたくも、なかなか意識が定まらない。

缶は全部で1000缶積まれており、商品の袋数でいえば、10000袋ということになる。明日が通関カット日だから、今から新しい商品を用意してもらうのは皆無だ。

もうこれは今回の輸出を破棄するしかないのかもしれない。目の前がぼやけそうになるも、拳を作りぐっと握りしめる。

とにかくまず上司への報告と、味八フーズへの連絡が優先だ。

震える足で一課へ戻ろうとした時、池駒が私を引き留めた。


「実来ちゃん!なんかあればすぐ頼ってよ?俺ら同期なんだから!」


心臓が爆音を鳴らす中、池駒の言葉が妙に響いて、すでに泣きそうになった。


「……池駒…どうしよう、わたし…」


池駒が私の肩をたたいてなだめようとする。


「わたし、せっかく六神からもらった大事な仕事を……」

「……六神?」

 
その名前を口にした途端、六神のふざけた顔が思い出される。私をバカにし、見下すその顔が。

それと同時に、「いい女なんじゃないの。」と言われた時の嬉しかった気持ちを思い出した。

小さな泡一つ一つが弾けていくように、自分が奮い立たされていくのが分かった。


だめだ、まだ泣き言をいうには早い。私はもう新人じゃない!中堅なんだから、足を止めてる暇はないだろ実来!


「ありがとう池駒!」


一課へ戻る途中、課長と味八フーズになにをどう報告すべきか、頭の中で文章を組み立てていく。

自分を責めるのは後でいい。来週になれば笑ってビール飲んでる自分が必ずいるはずだ。大丈夫。

無理やりポジティブなことを思い浮かべ、心の準備を整えた。


山城課長には心底嫌そうな顔をされ、とにかくすぐに味八フーズに連絡して指示を煽げと言われ。


味八フーズに連絡をして、20分ほど待って折り返しの連絡がきた。


「とりあえずカナダのクライアントには、予定通り出港してほしいと言われまして。」

「では、常温でよろしいということでしょうか。」

「はい。ただ、今は一年の賞味期限がつけてありますが、常温となると半年の賞味期限になるのでシールの貼り替えが必要でして。」

「こちらの不手際ですので、出来る限りのことはさせていただきます。」

「10000パックの貼り替えと、あと缶のバンドル梱包もあるので、恐らく…10人で3時間ほどかかるかと思いますが、」

「わかりました。なんとかカット日までにシールの貼り替えと梱包をさせて頂きます。この度は大変申し訳ありませんでした。」


味八フーズが貼り替え用のシールをすぐに機械で打ち出して、わざわざうちの会社まで届けてくれることになった。のだけど。

そのシールをクライアントが届けてくれる件について、なぜだかとんでもない人物が私を咎めに来ることとなる。

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