Un BUTTER


「あの、1万パックものシールも無駄にしてしまって、本当に申し訳ありません。」


私が震えながらに言うと、堀田さんが「シールの印字ミスで再打ち出しなんてのはよくあることなんですよ。」と優しくフォローしてくれた。


「提案なのですが、そのシール代と印字代はこちらで割引扱いとして請求分から引かせて頂いてもよろしいでしょうか。」


六神が、いつもと違う柔らかい口調で堀田さんに話すのを見て、思わず自分の目が見開いた。


「ああ、それはそうしてもらえると大変助かります。さすがに2万パック分のシール代となると、採算が取れない事態になりかねませんから。」


成分表示シールというのは、印字が簡単に消えない様、特殊な加工が施されたものだと聞いたことがある。当然コストも馬鹿にならないはず。

機転を利かせられない私が六神にフォローされて、顔を上手く上げられなくなった。きっと六神はそのことも事前に考慮し、上司にも掛け合った上での提案なのだろう。

何も考えていなかった自分を恥ずかしく思い、先輩にはしゃんとしろと釘を刺されておきながら、項垂れることしかできなかった。


そんな私を見てか、堀田さんは再びフォローをしてくれるから余計に迷惑をかけているのだと理解する。


「あの、実来さんには本当に迷惑かけっぱなしでしたから。製造が間に合わず、船の再予約を繰り返している状態でしたし。数量の増減も急きょ変更になったりで、再申請も立て続けにお願いしていましたので。」

その言葉で私は堀田さんの目を見て、「いえ、」と首を横に振った。


「それでも実来さんはいつもマメに連絡を下さり、快く対応して頂きましたから。今回のことはどうか気になさらないでください。」


今にも泣いてしまいそうなくらい目は潤んでいたけれど。声を振り絞ってお礼を伝えた。


「ありがとう、ございます。」



帰りの社用車の中で、絶対に泣くもんかと思いながらも泣いてしまった私。自分のミスで自分が泣くのは、あまりにも合理性を欠いているから絶対いやなのに。

本当に、こんな姿を六神にみられるのだけは……

窓を見ながら静かに涙を流していたこともあってか、六神も反対側の窓の外を見つめ、見てみないふりをしていた。


「実来、会社着くまでにはその顔をなんとかしなよ?仕事はまだまだこれからなんだから。」

「……は、い。」


先輩は当然私に上司として振舞って、六神もそれに対してどうこういうことはなかった。

その時に、二人は営業でこういった事案にも慣れていることを実感した。

二人ともONとOFFの切替が当たり前のように出来て、緊急事態にも迅速に対応できて。自分のミスにより、その仕事ぶりを目の当たりにできたことを嬉しく思うことにした。

うちの会社の有能な二人が、今この場で私を同等の社員として扱ってくれることに、下手なりにも胸を張れそうな気がしたから。


「ところで六神君、一つ聞きたいことがあるんだけど。」


私が泣き止んだのを見てか、先輩が言った。


「なんで農政局辞めたの?」


窓の外から聞こえる風の音と共に、丸裸の手榴弾が投げ込まれた。窓に張り付いていた六神が、さすがに顔を前に向ける。


「は、課長、俺の職歴調べたんですか?プライバシーどうなってんですかうちの会社。」

「たまたま、こないだ実来と農政局に証明書取りに行ってさ。その時に職員さんが言ってたんだよ。六神君は元気かってね。」


六神が咄嗟に泣き止んだばかりの私を見るも。視線が合った瞬間すぐに反らされた。で、なぜだか二つばかりの咳払いをする。そんなに今の私の顔酷いのか。


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