Un BUTTER
さっきまで雨に濡れていたはずなのに、熱のせいか六神の素肌は水滴一つついていない。
六神の素肌が私を包んで、私ごと乾かされていく。六神式乾燥機は稼働力が伊達じゃない。って、余計に風邪を悪化させてしまうんだってば。
「あ、ちょ、わ、わたし、ぬれてるからっ」
無理に離れようとすれば、六神はなんの悪気もないような清らかな瞳で、
「どこが?」
と聞いてくるから六神対応の実来式貞操観念を高く保つためにも、素肌を押しやった。
「ばか、シャツが、に決まってんじゃん!」
「脱げば?」
「脱いでくるから、手、離して」
「このだだっ子」
「だだっ子はあんたでしょ?!」
「いかないで。」
「あ、あんたの心の知能指数爆下がりなんじゃない?!」
「春風の思いやり指数が足りないー」
「ばっか、」
「俺に脱がされてよはるかちゃん」
再び六神の腕力によりベッドに連れ戻されて。脚で下半身を挟まれて蟹挟みを繰り出される。なんでいつもプロレス技なんだろう。
「な、ダメだって!」
「ダメくない。春風の胸に埋もれたい」
「おい。貧相な身体なんじゃなかったの?!」
「でも胸はそこそこ優秀」
「…………」
“胸は”ってなんだ。“そこそこ”ってなんだ。
疲労が限界なのもあって、いちいち拒むのが疲れる。抵抗できなくなった私に、六神は大変満足そうな笑みを浮かべ、私の濡れたブラウスのボタンを脱がし始めた。
六神の熱い指が、ブラウス越しに伝わる。鼓動も呼吸も、私の生に関する全てのものが六神の指に制圧されていく。
六神によって生かされているのではと錯覚させられるほどの不整脈を感じて。このまま離れられないかもしれないと目の前の悪魔がそう思わせてくる。
「あー……美乳ばんざい」
「なっ、なんで熱あんのにそんな元気?!」
「なんでって。春風が俺の手の中にいるからじゃん」
ブラジャーのホックを外されて。ブラウスもブラジャーも肩から流すように脱がされて。胸を露わにさせられる。こういう作業まで有能なのはいかがなものかと思う。
「……ねえ、あの、ほんとまずいんじゃ」
腕で前を隠そうとすれば、腕を避けられ、言葉通りに六神の顔が私の胸の真ん中あたりに埋もれた。息がくすぐったくて身体全体をひくつかせる自分が、まるで六神を誘っているかのようで、自分を責めた。
「せ、せふれになんて、ならないから。」
言葉にしなければ、消えてしまいそうだった。なんの確約もないまま身体を重ねることは、私自身をも裏切ることになるのだから。
彼女でいたい。まっすぐにそう言えたらどんなにいいか。
私は六神に応えを委ねようとするのだから、ずるい以外の形容が思いつかない。別れたことにしてしまった罪は、私にしかないというのに。
「頼むから、いかないで」
「え、」
私の胸に埋もれるその声は、あまりにもか細く、今にも消えてしまいそうだった。
「お願い、」
「な、なに、」
「課長のとこ、いくなよ」
「……っ…」
甘える仔犬の姿から狼にすり替わる六神が、私の胸の間をひと舐めする。
「や、やめ」
「いかないって言うまで、やめない」
今度は胸の真ん中に強く吸い付いてきた。それは罰なんかじゃなく、契約の証であれば今すぐにでも六神の期待に応えられるのに。
「痛、」
「あの人、先にモノで釣って、結婚をあらかじめ公言するあたり、春風の逃げ道なくしてるだけだし」
「でも、猶予もらってるし、」
「色々天秤にかけさせて、合理性を考える時間を与えるって。そっちのがよっぽどこえーわ」
そんな、勝手に必死になられても。六神には彼女がいる癖に、なんで私だけ、いくな、なんて言われなきゃいけないの……
「ひ、ひど。じぶんには彼女いる癖に、なんで私ばっかりいわれなきゃ」
「じゃあ言えよ」
「え、」
「いかないでって。他の女のとこいくなって」
「っ、」
「たまには俺にさ、かわいくねだってみれば?」
「………い、」
「い?」
「いかないで、ほしい、かもしれません」
「あまりにも不安定」
六神が今度は、私の胸の突起を舐め始めて。頭がまっしろにならないよう、気を確かに持とうと六神の頭を叩いた。
「じゃあ、なんであんた!の、農政局で働いてたこと、私に隠してたの……」
まだ私の自信は満身創痍ではないまま、一番気になってたことを聞いてしまった。叩かれても特にびくともしなかった六神が、胸から顔を上げて私を見る。