Un BUTTER
№.cause
食べすぎ、飲みすぎ、笑いすぎにより今にも酔い潰れそうな池駒とまゆゆ。寒いオヤジギャグでも処方してあげたい。
そして飲みすぎで、目がとろとろしている六神。
いつも介抱役の六神が、飲みすぎるなんて珍しいかもしれない。酒と混ざった六神はいつにも増して色気が激しい。
「かのじょにあいてー」
すでに飲み終わったグラスを手に、左右に彷徨わせる六神。甘くてとろんとした目元からは、想像もつかないほどしょっぱいことを、小さくつぶやいた。
私、マウント取られてるのかな。うんマウント取られてるんだろうな。そう思わないと生きてけない。
もし今のが自然に出たつぶやきだったのなら、もう私は明日あさってが生きられない。きっと来週からしか生きられない。
システム管理部の大輪田くんは、まだこの後仕事が残っているから会社に戻らないといけないらしい。つまり、左手に持つアレはウーロン茶かなにかで、アルコールは入っていないことになる。
「刈谷さん、さっきブランデー飲んでなかった?」
「飲んでたよ〜、今はラムレーズンカクテル飲んでるー。」
全く酔わない刈谷に、黒ブチ眼鏡の大輪田くんが優しく笑いをこぼす。
グラスの底から、ラムレーズンを箸で取る刈谷は、まゆゆとは対象的に背が低め。くるりとパーマのワンレンボブで、キャラクターものばかりで鞄の中を埋めつくしている。
不思議ちゃん系の刈谷は、不思議なことに経理部所属だ。「簿記一級保持者だから〜」と自分で言っていたけれど、あれは嘘かほんとか。
そんな刈谷が、ふて寝に走る六神を尻目に、私をじっと見つめた。
「ぱるるんって今でも本部のスパダリさんと繋がってるの?」
「スパダリ?なにそれ?」
「スーパーダーリンの略だよ?」
「……」
「ほら。イケメン高身長でイケメンのー、ほらほら、スパダリさんっ。」
「ああー…、東京本部の、朋政《ともまさ》さん?だっけ?」
たった三つのワードで答えを導き出した大輪田くんに、「多分それそれ」と手を叩く刈谷。
「ぱるるん、よくスパダリさんと連絡取りあってるじゃん。」
「職場で取りあってるだけじゃん。」
「でもこないだの夜、二人で飲んでなかったぁー?」
「わざわざ本部から来た上司の誘いは断れないでしょ。」
朋政《ともまさ》先輩は、私が入社当時、教育係として私とまゆゆについてくれていた先輩だ。二年前に東京本部の国際営業部に異動し、今では31歳にして課長の位置に就いている。
コンテナ不足で、船の遅延が続いている横浜港への視察に来たというだけで、たまたまその日の夜、たまたま暇だった私と飲みに行ったというだけ。だ……。
「え、なに。刈谷さん、朋政課長のこと狙ってるの?」
大輪田くんが、平然を装いつつも、意味深長にそう聞いた。
酔っていないはずの大輪田くんの今の声、いつもより確実に張っていたし。左ききの大輪田くんが、右手に箸を持ち替えたのを私は見逃さなかった。
「え?“ともまささん”て、だれ?」
頭にハテナを置く刈谷。で、頭にハテナを3ダース並べる大輪田くん。
うん、なんとなく大輪田くんが刈谷に気があるんじゃないかというのは理解できた。
「というか、ぱるるんと六神《むがみ》んって、なんで別れたんだっけ??」
“刈谷いきまーす”と、宣言もなしに踏み込まれた刈谷の急アクセル。不思議ちゃんの急発進はいつだって通常運転だ。
はッとする私と、ふて寝していたはずの六神の目が、否応なしに見開く。
「方向性の違い」
「プリンの奪い合い」
前者を発言した私に、六神がねむそうな声でぼそりと、「ソリの合わない芸人かよ」とつぶやいて。
「プリン奪い合って別れたらプリンに罪悪感植えつけるみたいでプリンに悪いわ。」と、私が店員さんを大声で呼び、名古屋コーチンプリンを注文する。
「いい加減呼び鈴使えよ 笑」と、六神は再びまぶたを下ろし、シャットダウンした。
「こないだは“概念の違い”と、“実来のSDGsに対する努力義務不足”って言ってなかった?」
「っもう、二人ともいっつも適当なこと言ってるー。」
Un サステナブルな私たちの原因は、毎日著しく変化を遂げていた。
苦笑する大輪田くんと、いまだ瞬きもせず、真顔で私を見つめる刈谷。
名古屋コーチンプリンを、ものの30秒ほどで持って来てくれた店員さん。ふて寝に逃げ、私に刈谷のあしらい役を押しつける六神とは比べものにならないくらい優秀だ。
「というか別れた理由って、そんなヤバいの??」
そんなヤバいのー。
同期ですら教えたくない理由がそこにはあった。