Un BUTTER
春風に嘘をついた俺を咎められるのは、この先一生俺でしかない。
この裁かれない嘘に、確かなひずみが生じているのだとしたら。
それでも俺は、春風といることが赦されるのだろうか。
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ヒロインがね、恋愛相談をして、アドバイスをもらってね。そこから進展へと導いていくのが本来あるべきオフィスラブの親友のポジションだと私は思うのよ。
思うのに、
「なんで私がまゆゆの恋愛相談にのってたんだろ。」
「あら何それ、ぱるるがヒロインとでもいいたげな発言ね?おこがましいにも程があるけど、こちらの物資に免じて今の発言は聞かなかったことにいたしましょ。」
“RainLADY”と書かれたアルバムをまゆゆに進呈したぱるる。
まゆゆはこの“RainLADY”という男性アイドルグループの中の、韓国と日本のハーフが推しらしい。これは賄賂などではなく、先日私のミスによる諸問題を手伝っていただいたお礼の品だ。
最近発売されたばかりのアルバムらしく、私には特に興味がないのでグループ名くらいしか知らない。ただ今いるアイドルの中でも一番トップに輝いているということだけは分かる。
「で、つまり、ぱるるは私に恋愛相談をするってわけなの?」
「いや、事後報告をしとくべきかなって。」
「それこそ職場の戦友である私は事前に何一つ聞かされてないんだけど。今ここでふてくされても構わないかしら?」
「ふてくされるのは家に帰ってからにして下さいな戦友。」
今さらながらに私は、まゆゆに事の顛末を話した。
・彼女がいる六神にお持ち帰りされたこと
・彼女の電話が気になる六神にむかついて途中で帰ったこと
・まあでもとりあえず六神に告白?されたこと
・朋政先輩に物資つきで誕生日に告白されたこと
・朋政先輩に結婚を前提に再告白されたこと
・朋政青司が三課のお局と関係を持っているかもしれないこと
「ねえ、もう色々驚きすぎて蛙化なんだけど、それってぱるるはどっちと付き合っても浮気相手になるんじゃ」
「あ"ーーやっぱりぃ?!」
肝心な話(六神が重い話)をしていない私は、六神の前職まで触れていいのか分からず、深くは掘り下げないことにした。
「まあ利害を考えればどっちも利益は金だし、どっちも損害は女でしかないよね。」
「でも六神には、先輩のとこにはいくなって言われて。俺も彼女の方にはいかないからって。」
「はあ。ってことは、じゃあ六神と付き合うことになったんじゃないの?」
「えーと。なんか二人で一緒に健全という名の睡眠をとった後、次の日の朝お互いバタバタして、そのまま慌てて会社に行きまして。」
「ああー、一夜明けたら振り出しに戻ってましたってやつ?」
そんなループした世界には居座りたくない。
「なんで私ってば、肝心な時に肝心なことが言えないんだろ。」
「どうでもいい人とはすぐに話せるのにねえ。」
まゆゆがランチの煮干とサキイカを両手に持ち、交互にかじりながら私を見た。
「まあでもさあ。うちらお互いに答えは出てるわけだから。もう片方をキッパリ諦めなきゃいけないわけだよ。」
「お互いに、って?」
「ああー、うちらって、みなまで言わなきゃいけない間柄?」
「“察して。”を匂わせてくる女、まじめんどいとは思っても言わない間柄」
そう、私もまゆゆも、もうどちらと一緒にいたいか答えが出てるのだから、けじめをつけなければ二兎追う者は一兎も得ずになりかねない。
六神とホテルに泊まった次の日、スマホには朋政先輩からの着信が二件とメッセージが一件入っていた。
『大雨警報出てるけど無事帰れた?シンプルに心配だから、気付いたらメッセージ返してね( ◠‿◠ )』
有無を言わさぬ圧しか感じない顔文字に、メッセージは返しておいたけれど。報告書を提出し終わった日の夜から、ほぼ毎日のように着信がある。
そして、その通話の合間にやってくる六神からのメッセージ。
『今電話してもい?』
タイミングがどうにも合わない現実に、私は朋政先輩にキッパリさよならしなきゃいけないのだろう。
「なんで昨日電話してくんなかったの。」
翌日の朝、港の見えるフリースペースにて、六神にこんなことをいわれる始末。
「メッセージ入れたじゃん。眠いからまた明日話そうって。そして今に至るわけじゃん。」
「ならせめて朝起きて3秒で電話ちょうだい」
「“せめて”の使い方学んで」
「どーせどこかの腹黒上司と連絡取り合ってたんじゃないの?」
「……〜♪(口笛)」
「俺の方に来るならさっさと縁切れば?」
「あんただって、彼女さんとさっさと縁切れば?」
私たちは一体なんなの?なんなんだ?いつまで経っても形容されないこの関係は、せめて悪友以上セフレ以上のものであってほしいと切に願う。
「切ったよ」
へ?
「うそ。」
「うそついてどーすんの」
「え……だって。切ったって、どうやって?」
「頭からこうすぱーんとスイカ割りのように」
「それ切るよりカチ割ってるから」
「春風と海いきたい」
「ここ、港という名の海だよ」
私の所見では、少なくとも彼女は六神に対してそれなりの恋愛感情を抱いていると思っていたのに。六神が彼女の真っ赤な外車によって送られてきたのは一度や二度じゃないはずだ。
わざわざ朝から彼氏の会社まで送る女が適当な付き合いをしているとは到底思えない。よくそんなすぱーんと切れたものだ。
「ちょっとその切り方、私に伝授してくれない?」
「……は?」
つい考えていた先の言葉が、私のゆるい口元からこぼれてしまった。六神にむかつきを与えられる私は、六神をむかつかせる天才かもしれない。
「本気で課長んとこにいく気がないならすぐに切れるだろ。頭で考えるよりさっさと行動にうつせよ。」
「いや、そうなんだけどさ、一応上司であり先輩であるからどう伝えればいいかなって、」
「はあ?お前のそういう八方美人なとこ、ほんと無理」
引き留めようと椅子から立ち上がれば、勢い余ったせいか椅子が後ろに倒れてしまって。気付けばすでに六神の背中は遠くの方にあって、私は頭を抱えるしかなかった。