Un BUTTER

セフレだとか下種な話をしていては小動物たちの教育に差し支えると思い、水絵さんをカフェスペースの方に誘った。

手を洗って消毒した後、席について真向いで対峙し合う私たち。

先制攻撃は稲垣水絵で、その攻撃力はすさまじいものだった。


「ちと君て、ベッドの上だとくそ優しいよねー」


おい。そこで私が共感するとでも思ってるのか。

しかしながら下衆の勘繰りとまでも言えない、あまりにもまっすぐな瞳で言うのだから、こっちはつい毒されてしまう。


「そ、そうですね……。ちょっと、いや、かなり甘々になりますよねー。」

「でもいれてる時のちと君の顔は征服感たっぷりって感じで。超そそるよねー。」

「………」


無理だ。無理に決まってる。私はそこまで六神とは進んでいないし聞きたくもない。

膝に置いた手を強く握れば、一気に体が汗ばんできた。水絵さんはそんなのどこ吹く風で、テーブルに肘をついたまま水色のバタフライピーを飲んでいる。

いや、やっぱりこの人、嫌味で言ってるのかもしれない。水絵さんが口からストローを離すと、ストローには真っ赤なリップがついた。


「私のこと、バカみたいだって思ってる?」

「はい。」

「正直なんだね。」

「そうですね。」

「今の会話ではるかちゃん、口調も顔も暗くなったよね。嫉妬した?」

「……」
 
「試してごめんね?はるかちゃん、ちと君のこと好きなんでしょ?」
 
「はい。好きです。」

「じゃあなんで付き合ってないの?」

「さあ、私にもわかりません。」

「両片思いほど時間の無駄なものってないのにね?だってほら、私みたいな女に邪魔されちゃうんだし」


カフェスペースには、小動物カフェには似つかわしくない、壁に掛けられた小型のテレビがついていて、なぜかまゆゆの好きな“RainLADY”のライブ映像が流れている。

その時のRainLADYの映像は、水絵さんの話を冷静に聞けるいい安心材料になっていた。


「ねえ見て、この腕時計。」

 
水絵さんが、その華奢な腕に着けられたカジュアルな金属ベルトの腕時計を見せてきた。

文字盤の背景が濃紺で、粉砕されたストーンが散りばめられている。


「まるで、星が散りばめられた夜空みたいな時計じゃない?」


言われずとも星空にしか見えない。私のパソコンのスクリーンセーバーで見慣れているものだ。


「これね、ちと君が私にってくれたの。」


ベッド事情を聞いた今さら、もう何を聞いてもショックはないと思っていたけれど。

それって。六神がセフレに腕時計をあげるって。どうなの?

急に目の前がぐらつくように、三半規管が乱れだす。

水絵さんの向こうに見えるアイドル映像がかすんだ。彼女に悟られまいと下唇を口内で噛み、痛みでしのぐ。

水絵さんは見透かすように口角を上げて、「オモシロ」と呟いた。 


「ちと君もはるかちゃんも、見てて飽きないわ!ふふふ」 

「……貰ったものを大事につけて、朝もわざわざ六神を会社まで送ってきて、それでただのセフレって。おかしくないですか?」

「朝?ああ、会社まで送ってったのは、はるかちゃんの存在を確かめるためだよ。」

「……え」

「会社まで送っていってあげようか?ってちと君に言うとね、いつも視線が少し泳ぐの。」


何を言っているのか分からず、アイスティーにも手がつけられないまま、溶けかけの氷が音を鳴らす。

水絵さんが自身のスマホを取り出すと、画面をタップし始めた。


「ああ、あった、これこれ!」


そう言って、ニヤけるような顔つきをした彼女が、机にスマホを置き私に画面を見せてきた。

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