Un BUTTER
そこには、どこか見覚えのある画像が映っていて
「はるかちゃん、これって、あなたよね?」
なぜこんなものがここにあるのか。というか、これって、この時って。
――――……私一人だった気が
「大学の頃から全然変わってないから、ちと君を送っていった時にすぐ見つけちゃった。」
「………」
「まさか同じ職場だったなんてね。」
「な、どういうこ」
「ちと君をわざわざ会社まで送っていったのは、私が“この子”に会って、“この子”にこの画像を見せてあげたかったから。」
画像を指さし、“この子”と言う水絵さん。
それは何度見返しても、紛れもなく私で――――……
「この画像、ちと君のスマホに保存されてたものなんだよ?」
六神の、スマホに……?
「ねえ、これって盗撮になるんじゃない?にしても不謹慎だよねえ。ずっとこの画像を隠し持ってたなんて。」
「な、なんであなたが、これを」
「たまたまだよ?彼のスマホがずっと振動してて、うるさいから覗いてみたらこれが出てきたの。」
「あ、あなたと六神は、そんな、スマホを見せ合うくらい親しい仲なの?」
「ううん。合コンで初めて会った日にこの画像で脅して関係を持ってただけー。」
何を言っているんだこいつは――――――
咄嗟に自分の手が、水の入ったコップをつかんだ。
「――やめて。私はあなたに忠告しにきたんだよ?そんな古臭いドラマみたいに水ぶっかけられる筋合いはないし!」
私がつかんだコップを、水絵さんが囲うようにつかんできて。触れられた手の甲が、次第に熱くなっていく。
初めて彼女の憤りを感じ取れて、すぐにコップをつかんだ手を離した。
「あなた、一度病院受診した方がいい!赤の他人のプライバシーに漬け込んで何がしたいの?!」
周りにいたお客さんに、じーっと見られているのが分かった。でも理解不能すぎて一発殴ってやらないと私の気が収まらない。
私だけならまだしも、六神を巻き込んだ罪は大きいんだよこのクソアマ。
「病院なら、何度も受診したわよ。」
「………」
「それと。これ、どう考えたってあんたのじゃん!なんで気づかないの?!」
水絵さんが着けていた腕時計を外して、わざと金属音をたてながら机に置いた。
「……え、」
「あんたにあげるつもりで買ったものを、もう必要ないからって私にくれたのよ!」
「……六神が?」
「馬鹿にすんのも大概にしてよ!みりゃ分かるでしょ?!こんな幼稚な時計、私に似合うわけないじゃん!!」
「はあ。」
水絵さんが乱暴に立ち上がると、私の胸あたりに無理やり時計を押しつけてきた。
あのすいません。怒りたいのはこっちなんですけど。
「あと私、ちと君に二度と連絡してくるなって言われたの。」
「え」
「その画像もちと君に消去されたんだけど、受信メールまでは消去されなかったから。たまたま添付ファイルに残ってたのよ。」
「そう、ですか。」
「ちと君のキモいぐらいの愛を、あんたは受け入れてあげれる?!」
水絵さんが、さっきまでの常人離れした表情から、人間味のある怒りを露わにした表情になる。
「私に興味ない男が堕ちてくるのが楽しいのに。堕ちなかった男はちと君が初めてだわ。」
この人、もしかして。愛に餓えてる?
なかなか私から目を離さない水絵さんに、私は真っ直ぐな瞳で突き返した。
今さら本気になられたところで、私は負ける気が全くしないから。
「どんなにキモくたってハゲてたって、六神千都世なら愛せます―――。」
水絵さんが、一歩後ずさりをして。ふいに後ろのライブ映像を一瞥する。
そのまま帰ろうとするので呼び止めた。
「スマホ!忘れてますよ!」
水絵さんがまた戻ってきて、机の上にあるスマホを取り、「泣き顔くそぶさいく」と一言残して帰って行った。
彼女のスマホに映っていたのは、紛れもなく私のぶさいくな画像。
私が一人で、大泣きしている画像だった。