Un BUTTER
サニーファクトエンターテイメント内定済ということは、当然業界関係者なわけで。試しに名前をウェブ検索してみれば、出るわ出るわ。
なんと水絵は、サニーファクトエンターテイメント社長の娘だということが分かった。
まさかの爆弾案件で正直面倒になったものの、元法学部の模擬裁判選手権で最優秀賞を受賞した俺の名がすたると思った。
水絵は100年に一度の目を持つスカウトマンであり、RainLADYのメンバーを構成し、育ててきたのだとか。
しかし水絵は、枕営業だの詐欺まがいのやり口で彼らをトップに立たせてきたため、枕営業をしたプロデューサーの妻が水絵を法的に訴え、サニーファクトエンターテイメントをクビになったと芸能サイトに書かれていた。
ただしそれはあくまで表面上、世間一般に広まっている建前の話。
RainLADYのファンの見解は全く違うもので。
水絵のマネージメント力を恐れた社長の本妻が、意図的に悪どい情報をでっちあげ、水絵をクビに追い込んだとファン個人のブログには綴られているものが多かった。
「ってことで、水絵ってとんでもない世界の住人だったんだね。世界が遠すぎて転生もできやしないわ。」
「……ふうん。まさかちと君がそこまで調べるなんて思いもしなかったけどね。」
「俺のスマホ盗み見みたあんたがそれ言う?」
仕事帰り、水絵の職場の近くにあるカフェで待ち合わせ、縁を切る糸口をつきつけてやった。因みにパンケーキは頼んでいない。
「で。それを知ってどーするの?うちのパパにでも告げ口するのぉ?それか週刊誌に垂れ込むとか?」
「ああ、そうだな。週刊誌よりもまあ垂れ込むとすれば、こいつかな。」
俺が見せたスマホ画面は、RainLADYのメンバー、磯良亜泉の公式ブログだった。
「………」
「俺は今からこいつにファンメールを送ろうかと思う。あんたらの育て親が、俺にセフレ関係を強要してくるんですけど、どうしたらいいですかね?って。」
いつもの饒舌な水絵はいないが、それでも歯向かうプライドはまだ持ち合わせているようだった。
「好きにすれば?アンチからの嫌がらせだと思うだけでしょ。それにそういうのってマネージャーが管理してるし。」
「ならSNSで拡散するのはありって?」
「あははっ、拡散されるわけないじゃん!」
俺はスマホ画面をタップし、画面を切り替え、もう一度水絵に見せて言った。
「この画像つけても拡散されないって?」
それは水絵の画像だった。嫉妬を煽れればと春風にも見せた、俺の部屋で、俺のスマホで水絵が勝手に自撮りしたもの。
背景に写っている部屋を見れば、生活感ある個人の部屋だというのが分かるため、プライベート感は充分見受けられるはず。
「……それ、ちと君の部屋の内装がまる映りだけど。」
「別に?部屋くらい拡散されたってどうってことないし。」
「ふぅん、ならSNSに上げてみれば?」
「ああ、例えRainLADYの育ての親が、一般男性にセフレを強要してるってSNSで流れても、RainLADYの活動にはなんの支障も出ないって、そういうわけね。」
「…………」
眉間にしわを寄せ、どこか思いつめた表情をする水絵。やっと人間らしくなってきて非常に悪くない。
「今さら私の悪い噂が拡散されたところで、どってことない!だって私、枕営業したり反社会的勢力と繋がりを持ってた女だよ?それでもRainLADYは現にトップに立ってるじゃん!」
「それは表向きの空言じゃないの?少なくともRainLADYのファンは、あんたを養護するような発言をしてるんですけど。」
俺はスマホ画面をいじり、RainLADYのファンが運営するファンサイトのスレッド一覧画面を見せるため、机にスマホを置いた。
RainLADYのファンは今だってRainLADYを守るために、レオン・水絵・サニーが事務所をクビにされた本当の事実をネット上で必死に訴え続けている。
それを俺が拡散するせいで、ファンを裏切ることになるわけだから、もう水絵に選択肢はないはずだ。