Un BUTTER
「軽く付き合ったんなら、軽くコトを済ますべきではないの?と思うわけよ私は。」
「正直さ、ぱるるは誰にでも気兼ねなく話しにいくし。軽すぎて女としてみられにくい、ってのはあるよね。」
「“塩対応”で充分事足りる女ってこと?」
「多分。」
ああ、つまり私、女としての魅力に欠けてるのか。
悲観的という言葉を知らない私は、ハニートラップを決行してみることにした。
ちょうど付き合って半年経った頃。居酒屋で、わざと酔っぱらって、お持ち帰りを試みることにしたのだ。今考えてもあり得ない暴挙。
結果からいって、刈谷が飲みそうな濃度の高いアルコールを片っ端から頼んでみたら、気持ち悪くなった。気持ち悪くなった上に、記憶がとぶほど泥酔した。
思ってたんとちがう。
本当は意識保てる程度に、かわいく酔うつもりだったのに。
抱いて。と六神に遠回しに伝えるつもりが。
一周回って、泥酔して記憶失くしましたけどなにか?になったのだ。
気付けば朝だった。
もっといちゃいちゃした腕枕とかを想像してたのに。
ラフな白シャツに黒いジーパンを履いた男が、ビスケットを食べていた。
朝からぼりぼりと。
「…………え」
「取引先のおばちゃんから貰ったやつ。春風《はるか》も食べる?」
昨日の昨日まで私のことは、実来《みらい》と呼んでいたはず。
まさか、まさかな。塩な六神が、そんないきなりさ。今のは聞き間違いかな?もしかして取引先のおばちゃんも春風という名前なのかな?
「おぉいまだねてんの春風ー」
唐突な春風呼びにより、身悶えしそうになる。枕をとって、顔をうずめたい。
12畳ほどの部屋の隅に置かれたテレビには、今日も元気に朝ご飯をもりもり食べているアナウンサーの姿があって。
その前では、座椅子に座り、こたつほどのテーブルに置かれたビスケットを、六神が箱から一つずつ食べていた。
六神は、この12畳とキッチンのついたアパートで、一人暮らしをしている。
ソファはない。ダイニングテーブルなんてものもない。フローリングにカーペットを敷いて、そこにこたつテーブルを置き、いつもご飯を食べている。
そして壁際に置かれたシングルのベッドには、私がいた。半裸姿で、記憶障害により顔ぽかーんな私が。
きっと今私は、相当なアホ面をしていることだろう。
でも半裸というのは、残念ながら私の確認ミスだった。
全裸だった。
「ちょ……、え、あ、あれっ、」
布団の中には、どう見ても下着をつけていない身体が存在していて。私が昨日着ていた服一式、そして下着が見当たらない。
「ああ服?今洗濯中。」
「……し、したぎ、」
「したぎも。」
「し、下着……、って、かばん!かばんなげて!」
「そんな重いの投げれるか」
六神が、計算機やら雑誌やらが入ったトートバッグを私に手渡して。そして、ビスケット一つを私の口元に近付ける。
「…………」
「ほれ」
「あ、あさから、ビスケット?」
「朝からえづけ」
私が半開きの唇でそれをついばむと、六神が「まて。」とつぶやく。