ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 思わずこめかみを押さえたそのとき、沓澤社長の穏やかな声が耳に届く。

「普段通りにしてくれていい。君は、君自身が思っているよりずっと優秀だからね」

 お褒めにあずかり大変光栄ではあるものの、手放しで喜ぶ気にはとてもなれない。このところはこの人にも沓澤代理にも言い包められてばかりで、嬉しいはずの言葉も言葉通りに受け取れそうになかった。
 失礼は承知の上で、社長とは目を合わせないまま席を立つ。
 失礼します、と零した自分の声は、下手をしたら敵意でも感じ取られてしまうのではと不安になるほど低かった。

「うんと困らせてやるといい」

 ドアノブへ手をかけた瞬間に聞こえてきた声に、はっとする。
 反射的に振り返った先では、普段通りに微笑む社長の姿があった。

 聞き間違いだろうか。随分と悪どい言い方に聞こえたけれど。
 かといって、わざわざ確認を入れる気にはなれない。軽く頭を下げ、私は社長室を後にした。
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