ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「わ、笑いごとじゃないです。だいたい、どこでどんなのを選べば」
「手伝ってやる。時間ねえから行きつけのとこになるけど」

 ええええ。て、手伝うとは一体。
 途方に暮れかけたところに新たな困惑と緊張が降り注いできて、私の頭は一気に飽和状態だ。

「け、結構です! 沓澤代理に手伝ってもらうことなんてありませんし!」
「そんな力いっぱい断らなくても……つうかもう向かってるから諦めろ、恨むなら社長を恨めよ」

 最後のひと言がもっともすぎて、うっかり笑いそうになる。
 いや、そもそも沓澤代理が恋人役がどうこうなんて言い出さなければこんなことには……と言いかけて、私は喉まで出かかっていたそれを無理やり呑み込んだ。

『うんと困らせてやるといい』

 やはり、なにもかも社長の思惑通りなのかもしれない。
 いくら遠縁といっても、社長夫妻が足を運ぶほどの親戚の不幸について、息子の沓澤代理が事情すら聞かされていないとは考えにくい。

 ただ、理由がよく分からない。
 面白がっているだけではないと信じたい。でも。

 手のひらで転がされている感じとは、こういうことを指すのかもしれない。
 隣の沓澤代理に聞こえてしまわないよう、窓の外へ視線を投げ、私はこっそりと溜息をついた。
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