ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 不満を滲ませた私の声は、うまくはぐらかされてしまった。
 にやりと笑った沓澤代理を睨みつけた途端、マダムの手が私の腕を引く。

 彼女に連れられ、試着室へ入る。
 一般的なアパレルショップの試着室とは違い、そこは異様に広かった。緊張を覚えつつも、好みの色やサイズ、条件などをマダムに伝え、数着試着してみる。

 にこやかにスーツを合わせてくれるマダムは、服の話はしても、他の話題――例えば私のことや私たちの関係について、話を持ちかけてはこなかった。
 あれこれ聞かれない分、〝察していますから〟というオーラがひしひしと伝わってくる。なんともいえない居た堪れなさを覚えた私は、無理やり意識を眼前のスーツに向けた。

 明るいグレーのジャケットに、オフホワイトのシフォンブラウス。首元には、紺をベースにした柄物のスカーフを当ててもらう。
 スカートはジャケットと同色の、自分ではまず選ばないフレアタイプのものだ。裾が控えめなフリルになっていて、ふわふわと揺れて少し落ち着かない。とはいえ、自前のリクルートスーツを思えば、確かにこれは華やかに見えるだろうと納得してしまう。
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