ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 なおも睨みを利かせる沓澤代理に対し、菅野さんはやれやれとばかりに溜息を落とし、そして一度はほどいていた腕を再び組み直した。

「ねぇ奏、趣味変わったの? それとも遊んでるだけ? らしくないじゃない、奏がそんな子を選ぶなんて」
「いい加減にしろ」

 一層低く呟かれた声に、さすがの彼女も気圧されたらしい。
 ちらりと私を一瞥した菅野さんは、以降はなにも言わず、つかつかとその場を去っていく。私よりも背丈が小さく、また愛らしい印象に満ちた彼女の背を、私はやはり呆然と見送るしかできなかった。

 杏奈、と名前で呼んでいた。
 以前、沓澤代理が付き合っていた人。今もそうやって名前で呼ぶのか。
 私みたいな人は、苦手、なのか。

 だからなんだ。そんな話を伝えられたところで、どうなるものでもない。
 肩書き目当てだと思われたことが悔しくて堪らなかった。自分の外見とは真逆に近い容姿をしている彼女に、あなたみたいな人、と明確な線引きをされたことも。
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