ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「あんたらがなにを話してたかは知らない。けど、杏奈とはなにもない。変な誤解だけはしないでほしい」

 開口一番にその話題か、と思う。
 変な誤解。そんな言い方しなくても、と笑ってしまいそうになる。
 名前で呼び合う仲のくせに。昔、付き合ってたくせに。

「お付き合いしてたんだって、聞きましたけど」
「っ、やっぱり碌なこと話してねえなあいつ。そんなのは十年以上も前の話だ」
「……そうですか」

 彼の声には苛立ちが滲んでいた。
 すぐ隣、こんなに近くから聞こえてくるそれが、どうしてか私の耳には少し遠い。

 私、恋人でもなんでもないくせに重くないか?
 責めてしまいそうだ。恋人でもなんでもない沓澤代理を。

 十年以上前ということは、当時の沓澤代理は高校生か大学生だ。
 菅野さんはどうだろう。可愛らしく若々しい印象が強かったけれど、あの口調や態度から考えるなら私より年上の可能性が高い。

 高校生同士のふたりを想像して胸が軋んだ。
 沓澤代理は菅野さんと、どんなお付き合いをしていたんだろう。どんな話をしていた? 部屋には入れた? キスはした?

 それ以上のことも、したんだろうか。
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