ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 そんなことばかり考えている自分に心底嫌気が差す。
 いっそ、沓澤代理に直接訊いてしまえばいい。下世話な話題に自分から首を突っ込めば、さすがの彼も私に失望するに違いなかった。

 そうやって、お前には関係ない、と声を荒らげられたほうが遥かに気楽だ。
 でも、それだけはどうしてもできそうになかった。

「誤解もなにも、私たちって、別に付き合ってるわけじゃないですよね」

 口から零れ落ちた声は、自分の声ではないみたいだった。
 抑揚のない声で告げると、沓澤代理は黙り込んでしまった。居た堪れなくなった私は、わざと声のトーンを上げて口を開く。

「出張、気をつけて行ってきてくださいね。沓澤課長」
「……まだ『課長』じゃない。週明けからだ」
「ふふ。そうでしたね。失礼しました」

 では、と笑いながらどさくさに紛れてドアを開けようとしたのに、容易に阻止されてしまった。こんな簡単に済むわけがないかと自嘲した途端、指を取られる。
 長い指が、つき指の痕の残る私の指を絡め取る。自分の指は冷えているのに、彼のそれは熱っぽくて、急に恥ずかしくなる。
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