ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 その笑みも、これまでに一度も見たことがなかった。
 さっきの腹黒い感じはすでに残っていない。ぽかんと口を開けたきり、うっかり相手の顔に見惚(みと)れてしまう。

 いやいやいや、見惚れている場合ではない。
 我に返り、私は慌てて口を動かした。

「あの、お使いになるんですよね、ここ? どうぞ」
「いや、特に用はない」
「え?」

 素っ頓狂な声をあげた私を、沓澤代理はやはり楽しそうに笑って眺めている。
 なら、なんのためにここに来たんだろう。微かに眉を寄せると、沓澤代理は覗き込むように見つめてくる。

 女性の中では長身に分類されやすい私を優に見下ろせるほど、彼の背丈は高い。詰められた距離のせいで見上げる形となっていた私の頭とほぼ同じ高さまで、沓澤代理は顔を下げた。
 あまりの近さに、私は反射的に身を引く。狭い給湯室の背後は、追い詰められたと表現しても差し支えないほどに空間がない。

「助けてやったお礼がほしい」
「はい?」
「あいつ、あんたと別れてから三ヶ月ぐらい経つよな? まだあんなにしつこいの?」

 ……〝あんた〟?
 唐突に親近感を出されたせいで肩が震える。いや、それよりも。
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