ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
     *


 とうとう柚子はちみつ味の飴の自宅在庫が切れた。
 あの飴缶の柚子はちみつ味は、私が勤めていた木乃田店の限定フレーバーだ。しかも通販サイトでも扱っていない、完全な店舗限定商品のひとつだった。

 県境を越えた先にある元勤務先へ、その日、私は買い物に出かけることにした。

 元同僚の皆に会いたいという気持ちもあった。
 店長、パートの皆、ひとりひとりの顔を思い浮かべる。私が社会人としての一歩を踏み出すとき、傍で支えてくれた人たち。

 楽しいことばかりではなかったはずの二年間、それでも楽しかったことを先に思い出す。
 つい最近になってから、そんな話を誰かに語って聞かせたことがあった気がして、胸の奥になにかがつっかえたような気分になる。

 途中まで鈍行列車に揺られ、そこからは歩いて懐かしのお店へ向かう。
 のんびりと向かいたい気分だったから、電車を降りてからバスには乗らず、徒歩を選んだ。

 木乃田店に勤めていた頃は、自家用車で通勤していた。実家に近い店舗に配属してもらえたおかげで、多少シフトがずれ込んだとしてもさほど苦ではなかった。
 まさかたった二年で、しかも隣県の本社に異動になるとは思っていなかった分、当時の衝撃は本当に大きかった。今でこそ懐かしく思い出せるけれど、いつだって手探り状態で必死に日々をかいくぐっていた。
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