ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「少し話したい。嫌なら断ってくれていいけど、できれば」
「……はい。ありがとうございます」

 いいんですか、とは尋ねなかった。
 予想していなかっただけで、嬉しくないわけでは決してなかったからだ。しなくていい質問をして、彼の気が変わる要因を自分から作るのは避けたい。

「飯はもう済ませた?」
「あ、いいえ。これからです」
「なら一緒に行こう。ええと、ご馳走しますので」

 なぜそこで丁寧語になるのか、とうっかり笑いそうになる。
 それを察知したのか、しかめ顔の沓澤課長は私には目を向けず、すたすたとレジへ向かってしまった。

 会計を済ませ、店長と内藤さんとアルバイトの女の子に手を振られて店を出る。
 店長はやはり、〝大丈夫、分かってるから〟みたいな顔でにこやかに手を振っていた。内藤さんも、店の奥で事情を聞いたのかなんなのか、完全に店長と同じ表情で手を振っていた。

 最高に居た堪れない気分になりつつも、沓澤課長の車へ乗り込む。
 この助手席に乗るのは三度目だ。余計なことなんかひとつたりとも考えるものかと、もはやムキになりながら、私は鼻息も荒くシートベルトを締める。
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