ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
冷静さを取り戻したくて俯いた矢先、隣から独り言じみた声が届いた。
「よく考えたら……つーかよく考えなくても、あんたに得ってなんにもねえな」
「はい?」
「恋人役」
赤信号に合わせて停まった車と一緒に、沓澤課長も話を止めてしまった。
正面を向いたままの横顔を、不躾なほどに見つめる。私の視線に沓澤課長が気づかなかったわけはきっとなくて、それでも目を逸らせなかった。
職場の上司という仮面を外したオフの顔。いつもより幼く見える横顔。
彼がそれを私に晒していること自体が不思議で堪らない。勘違いに拍車がかかってしまいそうで、私は引き剥がすように視線を彼から外して口を動かした。
「そうですけど、でも私、沓澤さんが四苦八苦しながら真面目に働いてるところを眺められて楽しいですよ」
「はァ!? 楽しいって……人が懸命に働いてんのをあんたはなんだと思って」
「あっすみません、語弊がありますね。楽しいというか、なんというか……楽しいです」
「言い直せてねえんだわ」
あはは、と声をあげて笑う。
沓澤課長も楽しそうに笑っていて、それなのに結局今日も結論は出ない。私たちの関係は相変わらず宙ぶらりんで、それでいいと思う私とそれでは嫌だと思う私がせめぎ合って、そんな忙しない内心ごとごまかすためにまた笑う。
「よく考えたら……つーかよく考えなくても、あんたに得ってなんにもねえな」
「はい?」
「恋人役」
赤信号に合わせて停まった車と一緒に、沓澤課長も話を止めてしまった。
正面を向いたままの横顔を、不躾なほどに見つめる。私の視線に沓澤課長が気づかなかったわけはきっとなくて、それでも目を逸らせなかった。
職場の上司という仮面を外したオフの顔。いつもより幼く見える横顔。
彼がそれを私に晒していること自体が不思議で堪らない。勘違いに拍車がかかってしまいそうで、私は引き剥がすように視線を彼から外して口を動かした。
「そうですけど、でも私、沓澤さんが四苦八苦しながら真面目に働いてるところを眺められて楽しいですよ」
「はァ!? 楽しいって……人が懸命に働いてんのをあんたはなんだと思って」
「あっすみません、語弊がありますね。楽しいというか、なんというか……楽しいです」
「言い直せてねえんだわ」
あはは、と声をあげて笑う。
沓澤課長も楽しそうに笑っていて、それなのに結局今日も結論は出ない。私たちの関係は相変わらず宙ぶらりんで、それでいいと思う私とそれでは嫌だと思う私がせめぎ合って、そんな忙しない内心ごとごまかすためにまた笑う。