ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 なんの実績も上げないまま次の社長として社に在籍することはできない、それなら他の会社に就職する――それは彼の基本的な理念であり、社長も今ではきちんと理解してくれているという。

「周りが勝手に言ってるだけなんだ。まぁ祖父(じい)さんから親父が引き継いだときはそれが当然みたいに継いだらしいから、俺が入社した時点でそういうことかって思われても仕方ねえんだろうけど」
「そうだったんですね。でもそれって、重役の方々がすでに皆そうお考えってことですよね?」
「そうだな。まぁなんていうか、世襲っていうだけで継ぎたくない俺の我儘だ」

 苦笑いをする沓澤課長は、正面を向いたきりだ。
 外の景色はますます夜色に霞み、信号の赤が目を突き刺すように光って見えて、私は思わず目を細める。

「今は、後から文句を言われないくらいの実績を積みたい。だから昇進の件ももうちょっと待ってくれって言ってたんだ、普通に無視されたけど」
「なるほど。本当に真面目ですね、沓澤課長は」
「真面目にもなるよ。あんたらだって嫌だろ、社長の息子っていうだけでトップに立った人間が無能だったら、ぶっちゃけ転職考えるだろ?」
「えっ? あ……と、それはどうでしょう」
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