ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
さすがに「はい」とは返しにくかったから慌てて取り繕うと、沓澤課長はあはは、と声をあげて笑った。
トレードマークの薄い微笑みでも他人行儀な顔でもない、屈託のない顔で笑う沓澤課長が、今まで以上に近くにいる感じがした。もしかしたら今の彼こそが等身大の彼なのでは、とぼんやり思う。
大学生だと詐称しても通りそうだと、いつかも思ったことがまた頭を掠める。同時に〝学生〟というキーワードに余計な記憶を刺激されてしまう。菅野さんと彼が十年以上前に付き合っていた――不意にその話が頭を過ぎって、ちくりと胸が痛んだ。
自宅アパートの場所は、パーティーの夜に送ってもらっているから知られている。他愛もない話を重ねているうち、窓の外は徐々に見覚えのある景色に変わっていく。
小さい頃にピアノを習っていたこと。奏、という名前は彼の母親が音楽の世界に憧れていたためについたらしいこと。それなのに、ピアノは習い始めて一年もしないうちに辞めたこと。
大ハズレだったよな、と笑う沓澤課長の、上がった口角の端に微かにえくぼが覗き見えた。可愛いな、とやや失礼な感想が脳裏を掠めていく。
トレードマークの薄い微笑みでも他人行儀な顔でもない、屈託のない顔で笑う沓澤課長が、今まで以上に近くにいる感じがした。もしかしたら今の彼こそが等身大の彼なのでは、とぼんやり思う。
大学生だと詐称しても通りそうだと、いつかも思ったことがまた頭を掠める。同時に〝学生〟というキーワードに余計な記憶を刺激されてしまう。菅野さんと彼が十年以上前に付き合っていた――不意にその話が頭を過ぎって、ちくりと胸が痛んだ。
自宅アパートの場所は、パーティーの夜に送ってもらっているから知られている。他愛もない話を重ねているうち、窓の外は徐々に見覚えのある景色に変わっていく。
小さい頃にピアノを習っていたこと。奏、という名前は彼の母親が音楽の世界に憧れていたためについたらしいこと。それなのに、ピアノは習い始めて一年もしないうちに辞めたこと。
大ハズレだったよな、と笑う沓澤課長の、上がった口角の端に微かにえくぼが覗き見えた。可愛いな、とやや失礼な感想が脳裏を掠めていく。