ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
『通せんぼみたいな感じなんだけどさぁ、これがサマになってる人って超カッコいいよね~!』

 雑誌を片手に持ち、該当の写真を指差して熱く語る親友を思い出す。
 それってそんなにグッとくるかな、と声に出して告げたとき、果歩は『まぁこれを平然とキメてくれる日本人男性は希少かもね』となぜか落ち込んでいた。

 いました、果歩さん。
 平然とキメてくる日本人男性が、社内に。

 うっかり声をあげて笑い出しそうになったところを無理やり我慢したから、おそらくこのときの私は相当に珍妙な顔をしていた。
 妙に騒がしい脳内に翻弄されているうち、沓澤代理は大きく身を屈めて私の耳元に顔を寄せていた。現実逃避に等しい思考を巡らせていた私は、耳打ちで囁かれたバリトンボイスに、今度こそ全身を固まらせてしまう。

「那須野さん。しばらくの間だけでいいから、俺の恋人役を引き受けてもらいたい」

 特段、なにかを期待していたわけではない。
 色っぽい展開を期待していたわけでも、なんでも。
 けれど。

「……は?」

 告げられた言葉の意味が頭に入ってこない。
 恥じらいも忘れてぽかんと目を見開いた私を、沓澤代理は薄い笑みを浮かべて眺めている。
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