ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
その日の帰宅も沓澤課長と一緒になった。
嫌がらせを受けたら隠すなと、以前強く言われたことを思い出す。報告しておいたほうがいいかと口を開きかけたとき、わずかに早く、沓澤課長が話を切り出し始めた。
「あの。前にあんたに食ってかかった、菅野のことだけど」
急に飛び出した彼のかつての恋人の名前に、びくりと背筋が震えた。
彼女を〝杏奈〟と名前で呼んでいた彼が、今はそうしなかった。救われた思いがして、けれど次の瞬間には勘違いを促されてでもいるような気分に陥って、返事に詰まってしまう。
「手は打っておいた。話、つけてあるから安心してくれ」
「え?」
「嫌な思い、させただろ。悪かった」
間もなく午後六時だ。辺りはもうかなり暗い。遠い街灯に照らされた沓澤課長の表情は、ひたすら甘くて優しかった。
ふるりと背筋が震える。試されているかもしれない不安は、私を食いちぎらんばかりに肥大し、息苦しさが増していく。
「どうやって、ですか」
「彼女はお前が思ってるような人じゃないって言った。正式に付き合ってるとも」
ずきりと胸が痛んだ。
正式に付き合ってる――そんな嘘までついて、あなたはなにがしたいんだろう。
嫌がらせを受けたら隠すなと、以前強く言われたことを思い出す。報告しておいたほうがいいかと口を開きかけたとき、わずかに早く、沓澤課長が話を切り出し始めた。
「あの。前にあんたに食ってかかった、菅野のことだけど」
急に飛び出した彼のかつての恋人の名前に、びくりと背筋が震えた。
彼女を〝杏奈〟と名前で呼んでいた彼が、今はそうしなかった。救われた思いがして、けれど次の瞬間には勘違いを促されてでもいるような気分に陥って、返事に詰まってしまう。
「手は打っておいた。話、つけてあるから安心してくれ」
「え?」
「嫌な思い、させただろ。悪かった」
間もなく午後六時だ。辺りはもうかなり暗い。遠い街灯に照らされた沓澤課長の表情は、ひたすら甘くて優しかった。
ふるりと背筋が震える。試されているかもしれない不安は、私を食いちぎらんばかりに肥大し、息苦しさが増していく。
「どうやって、ですか」
「彼女はお前が思ってるような人じゃないって言った。正式に付き合ってるとも」
ずきりと胸が痛んだ。
正式に付き合ってる――そんな嘘までついて、あなたはなにがしたいんだろう。