ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「……あの」

 なんなの。私たちって、なに。
 二度のキスと、とっくに消えたキスマークと、回数だけ重ねられる曖昧な抱擁と――それしかない。中途半端な関係に余計な言葉ばかりつけ足されて、順調に嘘が嘘で塗り固められていって、私の気持ちだけが置いてきぼりになる。

 心底、嫌気が差す。
 沓澤課長が好きだ。好きだから、優しくしてほしくなくなる。

 沓澤課長は分かっていない。
 私が、勘違いを強引に突き通してしまいそうになっていることも、本当の恋人にしてほしいと願っていることも、なにも。
 だから私にそんな顔を晒していられる。私が、もっといろいろなあなたを知りたいと思っていることを知らずに。

 少しだらしないジャージ姿と眼鏡と寝癖、そういう沓澤課長ももっと見たい。私だけに見せてほしい。
 仕事で行き詰まって堂々巡りになっているときのしかめ顔も好きだ。柚子はちみつの飴をせびってくるところだって、最初は鬱陶しさしか感じなかったのに、今ではこんなにも待ち侘びている。

『ゆず、ちょうだい』

 その声を、もっと聞きたいと思ってしまっている。
 たとえ私を呼んでいるのではなくても、彼の口がその音を紡いでくれるだけで心地好い。好きで好きで胸が痛むくらいで、なりふり構わず泣き出したくなる。
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