ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 目の奥がちくりと痛んで、思わず瞼を押さえた。
 空気も読まずにこのタイミングで泣き出しそうな自分を、心の底から嫌いになりそうだ。

「那須野?」

 どうした、と心配そうに腰を屈める沓澤課長は、まるで恋人の心配をしているみたいだ。
 ただの恋人役のことを、どうしてそこまで気に懸けるんだろう。今にも、ひどい言葉や卑屈な言葉をぶつけて罵ってしまいそうになる。

 恋人になんてしてくれないくせに。私を利用しているだけのくせに。
 そういう言葉を投げつけたら、沓澤課長はきっと傷つく。傷つけばいい、苦しめばいい、そう思ってしまう自分自身に私はまた自己嫌悪だ。

 最悪の、ループ。

「すみません、なんでもないです。今日はこれで失礼します」

 口角を上げるだけの作り物の笑顔を、近頃いつも浮かべている。
 分かりやすい嘘――それしか、私はこの人に抗う術を持っていない。
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