ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 ストローでクリームを崩しつつ、菅野さんは驚いたような声をあげた。
 そういえば先日、沓澤課長はこの人に対して『話をつけた』と言っていた。今頃になってそのことを思い出し、菅野さんはその件について話しているのだと気づく。

 納得できないと言わんばかりの顔を隠しもせず、菅野さんは手元のプラスチックのフォークを、生クリームの上に載ったシューへ突き刺す。
 サク、と小気味好い音を立てたシューを口に運んだ後、今日聞いたどの声よりも細い声で、彼女はぽつりと呟いた。

「私ね、来年結婚するの。今どき笑っちゃうけど、政略結婚ってやつよ」

 俯けていた顔をわずかに上げると、物憂げな顔の彼女と目が合った。
 その顔を見て、この人は確かに私より年上なのだと改めて思う。残りひとつのシューをサクサクと崩す菅野さんは、独り言のようにぽつぽつと呟き続ける。

「時代錯誤も甚だしいわよね。でも駄目だった。親に逆らいきれなかった」
「……菅野さん」
「奏と付き合ってた頃は……ってもう十年以上前なんだけどね、あの頃はお見合いの話なんて全然なかったの。私と奏が付き合い始めて、パパもママも嬉しそうにしてた。あの人たちから見たら、今も昔も奏は大手の得意先の息子だもの。当然よね」
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