ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 そんな両親に、自分たちが抱える感情の詳細は関係ない。
 沓澤の息子と自分たちの娘、ふたりの仲が良ければ都合がいい。それだけ。

 奏くん、よく来たね、ゆっくりしていって、また来てね。
 そういう言葉の全部に、薄汚い思惑が潜んでいる。それが嫌だった。汚らわしくて反吐が出そうだった。
 そう語る菅野さんの口調は、私に話しているというよりは、まるで自分自身に語り聞かせているようだった。

 ……私を呼び出してまでしたかった話がそれなのか。訝しく思ったけれど、だからといって一方的に話を切り上げるわけにもいかない。
 沈黙をもって続きを促すと、彼女はやはり物憂げな目で薄く微笑んだ。その笑みがどことなく、沓澤課長がよく浮かべる笑みに似て見えた。

「奏のどこが好きなのか、分からなくなった。親が美味しい思いをするだけな気がして、苛々して、憂鬱で仕方なくなって……別れたの。奏から見たらとんでもない我儘女だっただろうなって、いまだに思う」

 くしゃ、とシューが崩れ、彼女のフォークが動きを止める。
 テーブルに零れたシューの残骸を、菅野さんは焦点が合っているのかいないのか分かりにくい、ぼうっとした眼差しで見ていた。
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