ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 頼れる上司でしかなかった人物を相手に、初めて真っ黒なものを見出した。
 こんな人だったとは……ショックだ。仕事上何度も話してきたし、いずれはこの人がうちの会社を引っ張っていくんだろうなぁと呑気に考えていた、そんな過去の自分が不意に呪わしくなる。

「恩は売ったつもりだけど、まだなんか注文あるわけ?」
「は?」
「さっき。困ってたっぽいとこ、わざわざ間に入ってまで助けてやっただろ」

 さも当然とばかりの上から目線がつらい。
 別に頼んでません、と反論しかけた口を意識的に噤んだ。余計なことを言ったら、逆に揚げ足を取られそうな気がしたからだ。

 勝手に出てきておいてなんなんだ、この男。
 メリットどころか、数多の女性陣から睨まれかねないというデメリットしかない頼みごとを、率先して引き受ける人間がいるだろうか。
 いくら上司が相手だからといっても、これはきっぱりと断らなければ駄目だ。そう思って口を開こうとした、瞬間。

 ――ブー、ブー、とバッグの中からバイブ音がした。

 狭い給湯室の中、その音は無駄によく響いた。
 固まった首を無理に動かし、バッグと沓澤代理を順に眺める。
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