ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「は……?」
「噂自体が『付き合ってる』なんていう生ぬるい状態だから、陰口とか嫌がらせとかつまんねえもん喰らうんだろ」
「あの、なんの話ですか急に」
「昨日自分がどんな顔してたか、分かってて言ってんのか」

 不機嫌な態度の理由に、ようやく気づく。
 その態度の中に私への心配が見え隠れしている気がして、つい視線を上げてしまう。うんざりしたような顔で私を見つめている沓澤課長と目が合って、息が震えた。

「なにかされたら言えって言っただろ、どれだけ心配したと思ってる。むしろなんで俺がなにも気づいてねえと思えんのか、不思議でしょうがねえよ」

 苛立った声だ。心配だというなら、どうしてそんなに怒っているのか――そう思ったら、彼のそれが連鎖したように苛立ちが腹の底を焼いた。
 実際に陰口を叩かれた現場を見られていたとは思えない。けれど、昨日私とぶつかった三浦さんがなにか勘づき、それを沓澤課長に伝えた可能性はある。果歩との通話に三浦さんが登場したことを不意に思い出し、にわかに信憑性が増していく。

「別に私は大丈夫です」
「相変わらずヘッタクソな嘘ばっかりつきやがって。婚約すっ飛ばして結婚したっていいくらいなんだけど、俺は」

 突っぱねるような声で言い返すと、ますます苛立ちを煽る言葉が続く。
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